メディアの未来
ガジェット通信 / 2014年3月26日 14時0分
今回はメカAGさんのブログからご寄稿いただきました。
■メディアの未来
ネット時代においてコンテンツの製作はどういう方向に進むだろうか。可能性として正反対の2つの方向が考えられると思う。1つはこれまで個人ではできなかったことがネットやコンピュータの力でできるようになるため、個人による製作が主体となっていくという考え。
これは多くの人がイメージする方向だろう。一昔前は個人で本を出すハードルは、自費出版や同人誌など非常に高かった。カラー印刷などとんでもない、と。いまやネットなら簡単。さらに動画すら個人で作れる。一人の人間が自分の信念や感性を思う存分発揮できる。一つの究極のあり方ではある。
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一方で真逆の方向もあると思う。多くの人間が協力しあって一つの作品をつくり上げる。Wikipediaなんかその典型だよね。またプログラムならむかしからオープンソース開発でやっている。LinuxにしろFirefoxにしろ世界中の多くのプログラマが協力して作り上げたものだ。コンピュータとネットがあればこそできたこと。
でも小説などのように創作物は集団で作るのは難しいんじゃないの?と考える人もいるだろう。たとえばドラゴンボールという作品を集合知で生み出せるか?一人の人間だからこそ生み出せたのではないか。これを多くの人間が「設計」したら支離滅裂なコンセプトになるか、意見対立ばかり生じて全然まとまらないのではないか。
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そう考えるのも無理はないけれど、ソフトウェア開発だってそういう部分は同じだと思うんだよね。既存のコードになにか追加や修正を入れる場合、まずコードの前後を読んで、既存のコードがどういう方針で設計されているかを読み取る。そしてなるべくそれを壊さないような形で新たな追加や修正をしていく。
むろんそれでは不可能な場合もある。既存の方向を大幅に軌道修正しなければならないような大改修。そういうのはあーでもない、こーでもないと話し合って決めるわけだ。当然なかなか結論が出ず、うだうだ時間がかかるものもある。方向性を巡ってコミュニティが分裂してしまうこともある。sambaプロジェクトなんか分裂したよね。
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これは結局一人の人間が脳の中で、あーでもないこーでもないと悩んでいるのと同じ。結局新たなものを生み出す以上は、葛藤や試行錯誤が避けられないものだ。どんな素晴らしいソフトウェアも開発過程は嵐の中を漂う小舟のよう。それをなんとか乗り越えて完成する。
Wikipediaだって編集合戦とかあるよね。意見が対立して互いに自分の都合のいいように修正したがる。なんであれそういう「歪み」を抱えながら成り立っている。むしろそれこそが作品の価値ではないかと思う。産みの苦しみ、苦しみが大きいほどそれまでにないものを作り出したといえる。
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紙の本でもこれまで一冊の本を、各章毎に複数の著者が書くということは行われていたけれど、ネット時代はそれがさらに進むのではないか。一つの文章を複数の著者が追加・修正し合う。まさにソフトウェア開発と同じ。一つのソースコードを複数のプログラマが修正し合う。
当然著者同時の意見衝突もあるだろう。議論の結果対立が解消するケースもあるだろうし、袂を分かつケースもあるだろう。ソフトウェア開発の場合、フォーク(Fork)とか呼ばれる。此処から先はそれぞれ別な方向に進みましょうよ、ということ。オープンソース開発でそれが可能なのは、著作権フリーであるところが大きい。そうでないとそこまで作ったソースの権利をどうするか、面倒なことになる。誰でも再利用・改変自由ですという姿勢が生きてくるわけだ。
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本もそういう方向に進むのではないかと俺は思う。というか進んでほしい。これはネット時代で初めて可能になることだ。もう一つの方向である個人がすべてを行うというのは、結局は職人の世界であり、なんか先祖返りに見える。いや、それはそれで価値のあることだと思うのだけど、やっぱ過去の時代にないスタイルも魅力的ではなかろうか。
アニメやドラマも複数の脚本家が、エピソード毎に交代で担当してたりするよね。むろんてんでバラバラではダメだから大枠をまとめて調整する仕組みは必要だろうけど。
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ということで、どうもクリエイティブというと属人的な方向、もっといえば「一人の天才」をイメージする人が多いけれど、むしろ未来は、複数の人間がいかにして一つの作品をつくり上げるか?という方向にこそ、かつてない可能性が広がっていると俺は思うのだけどね。
コンピュータとネットワークが出現したがゆえに初めて可能になる世界。それは創造性の属人性を否定し、天才をも否定するものだ。少数の天才ではなく多くの凡才(といってもそれなりのレベルの人)によって生み出される創造。
「創造性とはそういうものじゃない!」と拒絶反応を示し人も少なくないだろう。でもそれこそ過去に囚われた頭の硬い発想ではなかろうか。単にこれまではネットワークがなかったから手段がなかっただけで、創造性の本質には無関係。
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ついでに言えば著作権などで創造者の権利や利益を保護した方がクリエイティブな活動は活発になるという発想自体が、創造性の属人性を前提としたもの。上述のオープンソースのフォークのように、著作権などを否定したほうが、多くの人間による創造的活動はスムーズになる。発想の転換に必要。
なんとなくネットには、ネットによるグローバル化と個人主義を自分に都合のいいように結び付けてる人が多いけど、別な真逆の「解」もあるってことで。ネットによって人間同士の結合が密になっていけば、個々の人間の存在感は薄まっていくのが不可避だと思うんだよね。脳細胞の一つ一つが存在感を主張しないのと同じ。
執筆:この記事はメカAGさんのブログからご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2014年03月26日時点のものです。
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