バイオレンスなRPGになったのは『ファミレスを享受せよ』の反動!?『METRO PENGUIN EUTOPIA』の謎にプレイレポとインタビューで迫る【BitSummit Drift】
Game*Spark / 2024年7月23日 19時0分
京都市勧業館「みやこめっせ」にて2024年7月19日から7月21日にかけて開催された日本最大級のインディーゲームイベント「BitSummit Drift」。
世界各国からさまざまなタイトルが集まった本イベントから、本稿では『ファミレスを享受せよ』でも知られる月刊湿地帯が開発を手がけ、わくわくゲームズより発売予定の最新作『METRO PENGUIN EUTOPIA』の初プレイアブルデモのプレイレポートをお届け。さらに開発チームへのスペシャルインタビューでゲームの中身や背景に迫りました。
居並ぶ殺人ペンギンたちを的確に叩き潰すべし
『METRO PENGUIN EUTOPIA』は不毛の地と化した北海道の地下に築かれた都市・サポロシティを舞台に、ペンギンの被り物をした主人公のバームが凶暴な殺人ペンギンを相手に日々戦いを繰り広げる様子を描いたRPG作品です。
今回出展されたデモ版はゲームのプロローグにあたるストーリーが含まれており「なぜ北海道がこうなってしまったのか」についてはしっかりと描かれているものの、主人公や殺人ペンギンについてはまだまだ謎に包まれたまま進んでいきます。
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そしてデモ版のメインとなるのが列車での戦闘シーン。本作の戦闘は、3列に並んで押し寄せてるペンギンを殴ったり撃ったりしながら倒していくターン制バトルになっており、プレイヤーのターンでは行動力の範囲内で武器を上手く使い分けながら効率的にペンギンを撃退していくことが求められます。
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序盤は基本的なチュートリアルでスタートし、ステージが進むごとに異なる行動を取るペンギンや特殊なシステムなどが登場。敵を殺害すると「加速度」が上昇してさまざまなメリットがある他、これが高い状態では条件を満たした敵は文字通り一撃必殺してしまう「FATAL」というシステムが特徴で、上手くプレイすればグロテスクなアートで持って“ペンギンだったもの”を電車の床へ次々と並べられます。
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デモ版ではプレイヤー側の体力に余裕がある状況で、そこまで綿密にプランを練らずとも突破が可能でしたが、相手の並びを入れ替える攻撃や大中小のペンギンをまとめて攻撃すると発生する確定クリティカルなど、戦闘システムは多彩。今後ペンギンサイドの攻撃も激しさを増すことを想定すると、正解となるプレイをじっくり考えたいプレイヤーが楽しめる戦闘システムになっているのではないでしょうか。
クリア後は少しだけストーリー要素があってデモ版は終了。印象的な色使いやグラフィックのテイストは『ファミレスを享受せよ』のクリエイターの作品であるものの、プレイ後は「得体のしれないことをさせられている」ような感覚であり、この作品がストーリー要素によってどう広がっていくのが、短時間ながら非常に興味をそそられる体験となりました。
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作りたいものを詰め込んだ作品をよくわからないまま遊んで欲しい
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ここからは月刊湿地帯のおいし水氏を中心に、『METRO PENGUIN EUTOPIA』開発に携わる皆さんに作品の背景や開発状況を聞いたスペシャルインタビューの模様をお届け。果たして、サポロシティの下層で跋扈する殺人ペンギンたちはどのようにして生まれ、どのように描かれていくのでしょうか。
──実際にデモ版をプレイしてみて、非常にインパクトの強い作品だと感じました。改めて簡単に作品の内容を説明していただけますか。
おいし水氏(以下、おいし水)「ペンギン彗星」という天変地異によって吹雪に包まれた未来の北海道を舞台に、サポロシティこと地下の札幌で殺人ペンギンと戦う人たちを描いたRPG、ですね。
──なぜこのようなゲームを作ろうと思ったのでしょうか。
おいし水以前から「地下で殺人ペンギンと戦う人」というモチーフやアイデアは頭の中にあったんですが、そこからなかなか発展することはなくずっと「貯金」しているような状態でした。
前作の『ファミレスを享受せよ』がすごくしっとりしたゲームで、ああいう作品を生み出す面が自分の中にあるのはもちろんなんですが、そうではない面もあって、意識的に前作で出さなかった面を次の作品では表出したいと思い、この貯めていたアイデアを持ってきたような形です。
──ある意味『ファミレスを享受せよ』を生み出した反動なんですね。
おいし水そうだと思います(笑)。
──しっとりした作品からバイオレンスな作品へと変わっただけでなく、『METRO PENGUIN EUTOPIA』はRPGですから、ゲームジャンルも大きく変わりました。
おいし水いろんなものを作ってみたい気持ちがありますし、逆に「同じものを自分が作るのは例え求められていても意味がない」とも思っていて、いろんなジャンルの作品を作ってみて「自分はこういうのも作れるな」という可能性を探して行きたいんです。今作は自分の中では古典的と言えるRPG路線を志向していて、そこに色々と自分なりの解釈を加えながら作っています。
──少し気が早い話ですが、『METRO PENGUIN EUTOPIA』の次に作る作品はまたテイストもジャンルも全く違うゲームになる可能性が高いのでしょうか。
おいし水その可能性もありますし、もしかしたら“反動の反動”で前回の作品へと戻る可能性も結構あるんじゃないかな……と自分では思っています(笑)。意外と気持ちの面ではそうやって交互になる方が取り組みやすいかもしれませんね。
──それはすごい反復横跳びですね(笑)。現在の開発状況はいかがでしょうか。
プログラミング担当者コードだと60%くらいですね。
おいし水私がまだ後半部分を確定できていないからというのもありますね。曲やシナリオなど全部の作業が少しずつ残っているんですけど、何かすごく課題がある訳ではないので、順調……と言って良いですよね?
わくわくゲームズ担当者 開発状況は「おいし水さん次第」ですね。
プログラミング担当者私が勝手に動くわけにもいかないですからね(笑)。
──順調に進むことを祈っています。今回はバトル要素があるので、そのバランス調整も必要になりますよね。
おいし水そうなんです。パラメーターの調整が必要で、デモ版だと武器も敵も4種類ずつ登場していますが、製品版だとその8倍くらいになる予定で、それぞれの相互作用も見ながら調整しな考えなければいけないので……あまり考えないようにしています。
──それだけの要素があると戦闘もかなり楽しめそうですが、難易度の目安やゲームとしての魅力としてのストーリーとバトルの比率をどれくらいにしたいという考えはありますか?
おいし水戦闘も「作りたかったもの」ではありますが、私の場合は第一にシナリオありきでシステムも考えています。難易度についても「理由のない難しさ」にはしたくないと思っていて、少し高めの難易度になる予定ですが、それは難しい敵を倒す達成感を味わってほしいのではなく、ストーリーのフレーバーと言いますか、戦闘が簡単すぎるとストーリーに反してしまうこともあると思うので、そこでベースに調整していくと思います。
──なるほど。ちなみに率直な疑問ですがペンギンがお嫌いなのでしょうか?
おいし水いえ、「好き」寄りです。ペンギン自体に興味があって、彼らは潜水に特化した体の構造になっているなど、ペンギンの生態について調べるのも好きですね。「地下に潜む怪物」というものを考えるにあたって、モンスターほどファンタジーでもなく、かといって凶暴なクマやサルほど現実的すぎない存在としてペンギンがピッタリだなと。ネットミームになるなど、ペンギンにはそういう要素を受け入れる懐の広さがあると思っているので。
──舞台が北海道になったのもペンギンのために寒い地域ということなのでしょうか?
おいし水いえ、私の出身地である札幌市には地上に出ずにいろんなところに行ける地下通路があって、それを「地下都市みたいだな」と感じた印象が強かったことから最初に舞台となる地下都市のイメージが固まったんです。その後からペンギンが入ってきました。
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──では、そんなペンギンと戦う主人公「バーム」についても教えてください。彼女も戦闘時の姿がすごく印象的ですね。
おいし水「戦う人」のイメージではあるんですが、軍隊のような整った装備ではなく、個人が創意工夫でやっているところを表現したかったんです。レインコートや長靴で返り血を避けられるように工夫しているんだろうなと。ペンギンの頭を被っているのも敵を威圧できるからで、当初は本当にペンギンの生首を被っている設定も考えていました。相棒となるキャラクターはいても、どこか孤独な感じを表現できればなと思ってデザインしています。
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──お話を聞いてみると不思議だった作品の世界について少し掴めたような気がします。ちなみにコードを書くプログラマーという立場からは今回の作品の世界をどう見ていますか?
プログラミング担当者色々考えがある人間だとは知っているので、まぁその範囲かなと(笑)。
おいし水彼は物語全編に興味がないんです。趣味としているのも全然違う分野のゲームで、『ファミレスを享受せよ』もプレイしていないですし、『METRO PENGUIN EUTOPIA』作りの参考になるからとギフトで贈った『Slay the Spire』も遊んでない。良い意味で私の作るものに執着がないですね。
──ゲーム作りにおいてはそれも良い関係性なのかなと思います。リリース時期はいつ頃を想定していますか。
おいし水2025年の完成を予定していて、リリースも2025年中にはと思っています。どうしてもボリュームが多くなってしまうので時間はかかっています。
──バトル要素もあるのでプレイ時間も長くなると思います。ボリュームはどれくらいになりそうでしょうか。
おいし水すでに書き終えている分でも『ファミレスを享受せよ』の3倍を超えるボリュームのシナリオがあります。今作も閉鎖的な舞台ではありますが、『ファミレス』と比較するとしても規模が広いので登場人物も多くなって必然的にテキストも増えますし、文字を書きたい人間なのでどうしても戦闘画面のフレーバーテキストなどもたくさん書いてしまうんですよね。
ただ、割と見切り発車でスタートしたので「こんなにかかるなんて」と思っているのも正直なところです。今後これくらいのボリュームになる作品はもう作らないかも知れません。
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──今回のBitSummitで初めてのプレイアブルデモ出展となりましたが、今後の予定はどう考えていますか?
おいし水宣伝とは反する考えになってしまうんですが、私は「こういう感情になるよ」とか「トリックや展開がすごいよ」とか、そういう前情報がない状態で作品に触れてほしいと思っているんです。よく分からないなと思って買った小説が実はめちゃくちゃ面白くて「自分だけがこれに気付いている!」というような体験がすごく好きなのでそう楽しまれたいと思いますし、ジャンル分けしづらい「よく分からないもの」を作って、そのまま「よく分からないもの」として受け入れられたら嬉しいです。
わくわくゲームズ担当者会社として今回と同様のデモ版をイベントなどに出展する可能性は考えられますが、これも列車戦だけの体験版ですし、少なくとも物語に触れられるのはゲームが発売されてからですね。
おいし水そうですね。
──では今回がすごく貴重な機会になったかもしれません。最後に作品を楽しみにしている方や、これから作品を知る方に向けてメッセージをお願いします。
おいし水やりたいこと、作りたいものを全部入れた、割と自分の為に作った作品だと思いっています。かなり自分の好きな要素を詰め込んでいるのでどこかしら刺さって頂けると嬉しいですし、ちょっとでも気になる要素があればプレイしてみていただきたいです。よろしくお願いいたします。
本作はマルチエンディングとなることも明かされており、果たして月刊湿地帯の生み出す「よく分からないもの」がどのような展開と結末を見届けるのか。殺人ペンギンとは何者で、主人公が過激な戦いを繰り広げた先にあるものとは一体何なのか。注目が集まります。ペンギン好きな方も嫌いな方も、『ファミレスを享受せよ』をプレイした方も、まだの方も、続報をチェックしながら楽しみにお待ちください。
インディーゲームの祭典「BitSummit Drift」特集記事はこちら!外部リンク
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