カール・ルイスの記録に挑戦だ!定規片手に筐体を粉砕した『ハイパーオリンピック』の思い出
Game*Spark / 2024年8月18日 9時0分
先日終了した2024年パリオリンピックにおいて、日本選手団は金銀銅45個のメダルを獲得しました。その熱狂がなおも冷めない中、筆者はオリンピックを題材にしたとあるゲームに挑戦しています。
ニンテンドースイッチとPS4向けのタイトル『アーケードアーカイブス TRACK&FIELD』は、かつて『ハイパーオリンピック』という名でゲームセンターを賑わせていた作品です。
本作の発売は1983年10月。翌年のロサンゼルスオリンピックを強く意識した内容で、「オリンピック」という名称を使うにあたり日米のオリンピック委員会から許諾をもらったという力の入れようです。
そんな『ハイパーオリンピック』は、ある意味で本物のオリンピックを超えてしまった側面も見受けられます。
ロス五輪は初めての「商業主義オリンピック」
1984年のロサンゼルスオリンピックは、「商業主義が確立された大会」と言われています。
今もそうですが、オリンピックは巨額の税金を投入します。現にそれまでの開催都市では、オリンピックがむしろ財政的ダメージとしていつまでも傷跡が残ってしまいました。それを解消するため、テレビ放映料やスポンサー料をできるだけ高く取ろうという試みが実行されます。
たとえば、筆者はフィルムカメラのファンでよくヤフオクの出品をチェックしています。たまに出てくるのが、キヤノンの「New F-1」という一眼レフカメラのロサンゼルスオリンピックモデル。ボディーにロサンゼルスオリンピックのエンブレムが刻まれているものですが、当時はこうした商品が各分野のメーカーから発売されていました。もちろんそれは、メーカーがオリンピック委員会にスポンサー料を支払ったからこその光景です。
こうした影響からか、ロサンゼルスオリンピックはそれまでの開催に比べて華やかになっていきます。
連打で新記録を叩き出せ!
そんなオリンピックムードの中、ゲームセンターの中では『ハイパーオリンピック』を巡って異様とも言える空気が漂っていました。
このゲームは100m競走、走り幅跳び、槍投げ、110mハードル、ハンマー投げ、走り高跳びの6競技の記録を競う内容ですが、それぞれに参考記録が設定されています。参考記録をクリアしなければ、次の競技へ進めず最初から。
また、『ハイパーオリンピック』は選手を走らせるためにひたすらボタンを連打する仕組みです。この連打がなかなかどうして高レベルで、一般的な腕前の人では良い記録を出せないほど。というわけで、全国のゲームセンターでは様々な連打法が開発されました。
最も有名なのが、プラスチック製の定規を使った方法。これをバネのようにしならせて素早くボタンを叩く……という、今だったら店員さんに怒られそうなやり方です。そのせいで、全国の『ハイパーオリンピック』の筐体は摩耗が激しかったとか。
連打のし過ぎで突き指したり、指の爪が割れたりといった『巨人の星』のような展開もあったといいます。
運動能力が反映されるゲーム
なぜ、人々はここまで『ハイパーオリンピック』に熱中したのか?ここまで連打の重要性にウェイトを置かれたゲームは、あまりなかったという事情があります。
このゲームは連打のスピードとタイミングを計る反射神経が問われます。即ち、これ自体がフィジカル競技です。現代のニンテンドースイッチ・PS4向けに配信されている『アーケードアーカイブス TRACK&FIELD』をプレイしてみても、「何でこんな指を酷使するようなゲームを作ったんだ!?」と叫びたくなる場面に幾度も出くわします。いや、これマジで気をつけないとコントローラーぶっ壊しちまうぞ!
しかしそれは、「自分自身の運動能力がそのまま反映される」ということ。
上述のように定規を使ったチートが横行していたのも事実ですが、一方で「定規なんか使わず自分の実力で記録を打ち立てたい!」という志を胸に抱いていた人もいました。これはまさにオリンピズムそのものではないでしょうか。
100m走はフライングに注意
『ハイパーオリンピック』は単にオリンピックに便乗した作品ではなく、ちゃんと競技のルールを再現していました。
一番最初の競技である100m走は、ピストルが鳴る前にボタンを押すとフライングになってしまいます。これを3回繰り返したら失格です。走り幅跳びは、ちゃんと踏切線を守らないとファールです。
「高い角度で槍を投げたらUFOを撃墜してしまう」というケレン味もありますが、陸上競技に対しての強いリスペクトが伝わる作りになっていました。
俺はカール・ルイスに勝つ!
1984年ロサンゼルスオリンピックのスターは、アメリカのカール・ルイスでした。ルイスは100m、200m、走り幅跳び、男子4×100mリレーの4種目で金メダルを獲得し、世界を驚愕させました。あまりに超人的な活躍だったため、今でも「短距離走者といえばカール・ルイス」というイメージを持っている人も少なくないはず。
ロサンゼルスオリンピックでカール・ルイスが打ち立てた100m走タイムは9秒99。今現在の基準で考えれば銅メダルも取れない記録ではありますが、当時としては人類最速を名乗るに相応しい数字です。
そして、日本のゲームセンターではルイスの記録に挑戦しようとした無数のスプリンターが存在しました。ルイスの存在が、全国のゲーマーたちの心に火をつけていたことは間違いありません。
『ハイパーオリンピック』は、リアルのオリンピックとの相乗効果によりその地位を不動のものにした作品と言えます。
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