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【特集】シナリオライターが遊ぶ『黒神話:悟空』―幾度となく語り直されてきた物語「西遊記」を自由に解釈したアクションRPG

Game*Spark / 2024年9月8日 12時0分

ビデオゲームに秀逸なシナリオが盛り込まれ、それを読み解くことも遊びの一部として受け止められるようになった現代……本連載記事では、古今東西のビデオゲームを紐解き、優れたゲームシナリオとは何かを考えていきます。第10回は『黒神話:悟空』を取り上げます。


本記事に『黒神話:悟空』のネタバレが含まれています。
閲覧の前にご留意ください。


西遊記のその後を描いたアクションRPGとして、全世界で大ヒットを飛ばす『黒神話:悟空』。特に中国ではPS5が品薄になるほどの社会現象を巻き起こしています。

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高難易度のバトルも注目点ですが、ゲームのバックボーンになっている芳醇な中国神話世界や、とてもユニークな切り口で始まるストーリーも気になるところです。今回はそれらについて見ていきましょう。


本作は取教の旅を終え、自らの故郷である花果山に戻った孫悟空が、道教の神である顕聖二郎真君に襲われるところから始まります。


顕聖二郎真君によって再び石の卵に封印されてしまい、それに加えて各地の妖王たちが彼の封印を解くために必要な六根を奪ってしまったために、孫悟空は何世代にも渡って沈黙してしまいました。そこで猿爺が「六根を取り戻して孫悟空を蘇らせよ」と、ひとりの志ある若い猿を旅に遣わせます。


そう、本作は『黒神話:悟空』なんてタイトルでありながら主人公は孫悟空ではなく、名前もない一匹の猿なのです……今のところは。


孫悟空を蘇らせるという天命を帯びた一匹の猿――天命人は、各地を回って六根を集めます。立ちはだかるのは、六根を拾ったことで凶悪な力を手にした妖怪たち。彼らの出自も当然西遊記にあり、章によってはクロスオーバーして登場する場合もあります。


たとえば「三章 夜生白露」の本筋は、西遊記で言うと第65回と第66回に当たり、小雷音寺で黄眉と戦うものになっています。しかし、道中で出てくる通天河の老亀は第47回から第49回に登場するキャラクターであり、『黒神話:悟空』はこの手のミックスがあらゆるところに見え隠れします。


西遊記の本編で少しだけ出てきたマニアックなネタを組み合わせて、さらに彼らのその後すらも自由に想像して描き、まったく関係のなかったキャラクターたちの空白を埋めていくというのは、かなり度胸のある創作ではないかと感じます。この文化に初めて触れるゲーマーが、ここから西遊記に入って、色々と調べてくれるものだと信じているわけですね。


そもそも西遊記は一冊の小説ではなく、千年以上に渡って多くの人々に語り直されてきたことで出来上がってきた作品です。


大元は7世紀にあった史実であり、三蔵法師玄奘がインドから経典を持ち帰ってくるまでに見聞きしたものを、弟子が記した「大唐西域記」に端を発します。これに妖怪の類は出てきませんが、その後に別の弟子に記させた「大唐大慈恩寺三蔵法師伝」という伝記の時点で摩訶不思議な話が出てくるので、当の本人が早速脚色を始めたわけです。


中国各地の壁画には、行脚僧を描いたものがあり、たとえば甘粛省安西の楡林窟や、同じく安西の東千仏洞に、猿のお供を連れた僧侶が描かれています。他にも、福建省にある開元寺にも、ときの皇帝である梁武帝と三蔵法師が向かい合っている彫刻や、刀剣を構えた猿の武人と龍の化身のレリーフなどが彫られているそうです。


その後も、都市の盛り場で語られた寄席や、中国語の会話教科書などに、西遊記は断続的に登場していき、明の時代になってようやく、我々の知る西遊記に近しい書籍「新刻出像官板大字西遊記」が出版されました。


さて『黒神話:悟空』に話を戻しましょう。各地で六根のうちの五根を手に入れ、花果山に帰ってきた天命人は、旅の始末のために孫悟空が封印されている石の卵の内部へと入っていきます。


今も眠りし悟空の眼前まで来た段になって、猿爺が、六根の最後のひとつが「意」であり、飛び散ってしまった際に消えてしまったことを語り出します。血の気が多い猪八戒が「このぺてんめ!」と猿爺に詰め寄りますが、どうもそういうわけではないようです。


天命の本質は、ただ持ち帰ってくることにあるわけではなく、その旅路の中で見たものにあると語る猿爺。今や在りし日の孫悟空と同じだけの実力を付けた天命人が、老いた孫悟空と戦い、彼を打ち破ります(猿爺のロアを読む限り、どうやらこの旅路自体が何遍も繰り返されてきたものだったようにも取れます)。


そうして、消えていく孫悟空を眺めながら、西遊記の有り得たかもしれない結末がぽつぽつと語られていきます。それは実際に千年以上ものあいだ、数多くのバリエーションが付け加えられ、あらゆる荒唐無稽を許した物語であるからこそ、そんなオチもあったかもしれないと思わせるものばかりです。


また、裏ボスである顕聖二郎真君を倒すことでエンディングにシーンが追加されますが、それは孫悟空の「意」であることがわかります。西遊記を逆再生する形で語られていく長大な記憶を、孫悟空より受け継いだ天命人は、果たして何を思うのでしょうか?


西遊記をこれでもかとリミックスし、ド派手に語り直したアクション・スペクタクル巨編『黒神話:悟空』。是非とも原典と読み比べながら味わってみてください(ディレイ攻撃だけは許さないがッ!)。


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