「復刻不能」からの復活をどうやって成し遂げたのか…キーワードは「開発者自身によるif」―『トリガーハート エグゼリカ エンハンスド』スイッチ版インタビュー【TGS2024】
Game*Spark / 2024年9月30日 18時30分
2006年にアーケードで稼働開始し、「メカ少女たちが戦う」という衝撃的なグラフィックで話題を呼んだ童のシューティングゲーム『トリガーハート エグゼリカ』。
そのPS2への移植版となる『トリガーハート エグゼリカ エンハンスド』が2009年にアルケミストから発売されましたが、2023年に『トリガーハート エグゼリカ』のスイッチ/Steamへの復刻移植が行われた際には「PS2版の権利がどこにあるかわからないため、PS2版の内容は盛り込めない」とされていました。
ところが2024年9月『トリガーハート エグゼリカ エンハンスド』の復刻の目途が立ったということで、現在同作復刻の費用を集めるためのクラウドファンディングが実施されています。
今回弊誌では同作の復刻を手がけるコスモマキアーの代表である森一申氏、プロダクトマネージャーの照山茂行氏にTGS2024の会場でインタビューを行いました。「復刻不能」と見られていた同作の復刻に至った経緯や、PS2版との違いについてもお聞きしてきましたので、ご一読いただければ幸いです。
わずかなデータから執念の「目コピ移植」
――今回はお時間を割いていただきありがとうございます。
森 一申氏(以下、森): よろしくお願いします。
照山 茂行氏(以下、照山): よろしくお願いします。
――まずは「コスモマキアー」という会社から簡単なご紹介からお願いします。
森: 元々私はナムコに在籍していて、PCオンラインゲーム事業を担当していました。2009年にナムコを退職して、2010年にコスモマキアーという会社を作り現在に至るというところです。
――「コスモマキアー」という会社がゲーマーの皆さんに知られてきたのは、2023年に行われた『トリガーハート エグゼリカ』のクラウドファンディングあたりからという印象が強いんですが、それ以前はどんなお仕事をされていたのでしょう。
森: 創業からしばらくはいわゆるガラケー向けのソーシャルゲームや、PC向けのブラウザゲームをやっていました。ガラケーがスマートフォンになってからは、スマートフォン向けのソーシャルゲームを受諾などでやっています。
――それが『トリガーハート エグゼリカ』ほか、コンソールやPCにさまざまなゲームを出すきっかけは何だったんでしょうか?
森: 照山が10年ほど前に『式神の城』のiOS版を出すという仕事をやっていて。それが色々あって弊社に移管されるという形になったので、これをSteamに移植しよう!という事になったんです。
そこでソーシャルゲームやオンラインゲーム事業の傍ら、『式神の城』『式神の城2』の移植作業を行ったのがきっかけですね。
コンソール機については、3~4年前に弊社内で「スイッチが盛り上がっているよね」という話が挙がり、社内にはコンソールの開発経験豊富なスタッフもいるので「じゃあスイッチもやってみよう」と。先述の『式神の城2』をスイッチに持っていこう、というところから始めた感じです。
――『トリガーハート エグゼリカ』のクラウドファンディングを始めたのはどういう経緯だったのでしょう?
森: 弊社のCTO田端(田端勤氏)は、元々童の開発トップだったんです。『式神の城2』を仕込んでいる傍らで、次は何をやろう?という中で、「そう言えば田端が童にいたし、エグゼリカなんか出せたらファンが喜ぶんじゃない」という話が出て。そこから権利交渉を始めて、2023年の12月にクラウドファンディングとして打ち出せた、という感じです。
――それが『エグゼリカ』のクラウドファンディング第1弾だったという訳ですね。今回第2弾として『トリガーハート エグゼリカ エンハンスド』のクラウドファンディングが行われますが、前回『エンハンスド』に関しては権利関係がどこに行ったか分からず、復刻不能な状況だったというお話を聞いていました。そのあたりをどうやってクリアされたのでしょうか。
森: 『トリガーハート エグゼリカ エンハンスド』は元々アルケミストさんが企画・開発・販売を行っていたゲームなんです。ただ、もうアルケミストさんは会社を畳んでしまっているという状態で。原作の開発者と権利者にも確認をしたんですけども、ソースコードもリソースデータも残ってないと。
――全部残っていなかったんですか。
森: 残っていなかったんですよ。それで『エンハンスド』は元々アルケミストさんが作ったゲームだし、我々としてはちょっと無理だよね……と思っていたんですけど、いざ『エグゼリカ』を発売してみると、『エンハンスド』を求める声が予想以上に多くて(笑)
――そうですよね。
森: 「ちょっとこれはやらないとね」みたいな感じで。そこから色々ご縁がありまして、当時アルケミストの代表を務めていた浦野さんに会いに行きまして。それで事情を説明したら、「ぜひ応援したい」ということで。
――そこからアルケミストさんの財産の方にアクセスさせて頂いたという形ですか。
森: はい。でも、結局アルケミストさんの方にもソースコードもリソースデータもなかったんです。
――え、そちらにもなかったんですか!
森: 少しはあったんですけど、ゲームのリソースはほぼなかった。
照山: 広報用データはいっぱいあったんで、それで私は助かったんですけどね。
森: 浦野さんも「頑張ってください!」という感じだったんで、それらのデータを基に『エンハンスド』に近づけようと社内で作り始めたんです。
――ということは今回の『エンハンスド』、実はもういわゆる昔ながらの「目コピ移植」という事だったんですね。
森: そうです!まさに!
照山: 移植というか、新規作成ですね。エミュレーターでもありませんし。
今回の『エンハンスド』は「原作者の作ったif」だ
――イチから作るとなると、単純な移植とは違ってできる事がだいぶ多いとは思うんですけれども、今回の『エンハンスド』は以前の『エグゼリカ』と比べてシューティングゲームとしてどのように差別化されているのでしょうか。
森: そこはまずは大きな特徴である、「フェインティア」をプレイヤーキャラクターとして足そうというところからでした。
ただ、元のソースコードもないですし、Hirunedさん(原作のディレクター・プログラマー)と、今回フェインティアの実装を担当するうちの田端で話して、いま2人だったらどういうフェインティアにするかという検討から始めました。
結果としてPS2の『エンハンスド』でアルケミストさんによって追加されたフェインティアとは完全に同じではないですけれども、そこは原作者の手による、あるべき姿が反映されたものです。
照山: 「アーケードモードでフェインティアが使えるようになったら?」というifを原作者が作ったらこうなる、というか。そういう意味ではPS2版の開発会社が作ったモノとは全然違うというか。ゲーム部分もあのバージョンベースじゃないぞって。
――そうなるとフェインティアはさすがに弱くなりますよね。
照山: そうです。今回のフェインティアはあそこまでじゃないです。
森: という訳で、原作者であるHirunedさんの考えをベースに「あるべきフェインティア」で行こうぜ、僕たちがやるならこう実装するよね……という形になっています。
――今回『エンハンスド』はスイッチ版のみが発表されていますけれども、他機種への展開も検討されているのでしょうか。
森: まだちょっと何とも言えない、検討中の段階です。とはいえ先に出た『エグゼリカ』同様には……といったところです。まずはスイッチ版をお手にしてもらえればと。
『エグゼリカ』というIPの今後について
――ありがとうございます。今回の『エンハンスド』はクラウドファンディング復刻第2弾ということですが、実のところ『エグゼリカ』は復刻路線では、もはや復刻できるものがドラマCDしかないような状況となりました。
今後のIPとしての『エグゼリカ』はどういう展開をしていくのでしょうか。
森: せっかく権利者の方々からお譲りして頂いたので、何らかの継承というものはやっていけたらと思いますけれども……具体的にはまだ未定です。
――なるほど。ユーザーとしては残り9人のトリガーハートを見たいな……とも思うんですけれども。
照山: やっぱりそう思いますよね。
森: 詳しい(笑)とはいえ、かこいかずひこさんも関わってくる話になりますので、そのあたりは今回の『エンハンスド』の様子などを見つつ引き続き検討というところですね。
――アーケード版の『エグゼリカ』が出た当時は、すごいキワモノのビジュアルコンセプトのゲームが出たなって。ゲーム自体も室伏(※注)してて特徴的でしたが。
(※注:敵を捕獲し、振り回して投げる『エグゼリカ』の特徴的なシステムを指す。語源は当時有名であったハンマー投げの室伏広治選手から)
(一同、笑)
森: あの当時はそうでしたからね。
――ただ、今では色々な作品とのコラボなどでも知られるような「メカ少女」テーマで長期運営されるゲームがあったり、プラモデルでもひとつの主流ジャンルであったりと、メカ少女が大きく受け入れられた状況ですよね。様々な形でエグゼリカを見たい……というファンも多そうです。
森: そういった周辺展開をやりたいと思う気持ちはありますね。今回の『エンハンスド』の実績が十分なものであれば、それを見て声をかけてくださるところがあるんじゃないかなとは思ってます。
照山: 力を貸してください、皆さん(笑)
森: まずは目先のことをしっかりやるというところなんですよね。それからまたちょっと先の話を考える、という形で。
――そうなってくると、今回のクラウドファンディングがだいぶ重要だなという事になりますね。
森: そうなんですよね。
照山: 「越えろ、前のプロジェクト」と言われてます。そのために私も頑張ってます(笑)
森: でも『エンハンスド』すごいですね。やっぱりみんな待ち望んでたんですかね。
――コンテンツとしてはどうしてもシューティングゲームってストーリーが薄くなってしまうところがあるので、そういうとこをカバーしているのは嬉しいものですよね。
森: 当時PS2版が数として一番売れていたのはそういう理由かもしれないですね。
――本日はありがとうございました。クラウドファンディング是非頑張ってください!
森: 応援よろしくお願いします!
『トリガーハート エグゼリカ エンハンスド』のクラウドファンディングは、2024年11月9日まで実施中です。
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