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『風来のシレン』シリーズに見る日本におけるローグライクの進化の過程【げむすぱローグライク/ローグライト部】

Game*Spark / 2024年11月10日 18時30分

自動生成やパーマデス(一度死ぬとすべてを失う)など、さまざまな要素が絡み合い、何度遊んでも楽しむことのできるゲームジャンル「ローグライク/ローグライト」。今週の「げむすぱローグライク/ローグライト部」第5回では、国産ローグライクの雄『不思議のダンジョン 風来のシレン』シリーズを通し、国産ローグライクの進化の過程を辿ります。


『不思議のダンジョン 風来のシレン』とは


『不思議のダンジョン2 風来のシレン』(スマートフォン版)

このシリーズは「ローグライク」として鉄板のシリーズなのでご存じの方も多いと思いますが、改めて概要を説明しますと、日本に「ローグライク」というジャンルを根付かせたチュンソフトから発売された『トルネコの大冒険 不思議のダンジョン』(1993年)の続編として1995年にSFCで発売された『不思議のダンジョン2 風来のシレン』がシリーズ第1作です。


ゲーム内容としては純粋な『Rogue』のクローン作としての色が強かった『トルネコの大冒険』から『ドラゴンクエスト』関係の要素を排除して、主人公やアイテムは和風、世界観は南米色が強いという独自の多国籍感を設定し、「泥棒が可能なダンジョン内の店」「アイテム欄を拡張できる壷」「食べると特殊効果が身に付くモンスターの肉」など、『NetHack』系ローグライクゲームの要素を上手くアレンジして導入しつつ、そこに「武具の合成」といったオリジナル要素を継ぎ足して、まったく新しいローグライクゲームとして生み出されたのが『風来のシレン』第1作になります。


『風来のシレン6 とぐろ島冒険録』

それから『風来のシレン』は『トルネコの大冒険』とは別路線のローグライクゲームとしてシリーズ化され、そのシリーズの中で「アイテムの呪い・祝福」「ランダムに性能が付与された神器」など、『NetHack』『Angband』系統の伝統的ローグライクから輸入したと思われる要素や、「モンスターテーブルや戦闘システムが一変する昼と夜」「行く手を阻む強大なデッ怪モンスター」など、シリーズ独自の要素を盛り込みながら、2024年発売の『風来のシレン6 とぐろ島探検録』までシリーズが続いています。


なお、本記事ではシリーズ第1作(スマホ版)(以下『初代』)、およびSteam版『風来のシレン5Plus フォーチュンタワーと運命のダイス(以下、『シレン5Plus』および『5Plus』)』、スイッチ版『風来のシレン6 とぐろ島探検録(以下、『シレン6』および『6』)』を主に取り扱います。だって筆者がスクリーンショットを用意できる環境がこれくらいしかないですもん。


『初代』シレンの産み出したもの


先述したように『初代』シレンはまったく新しい日本製ローグライクゲームであるのですが、その前身となった『トルネコの大冒険』で産み出された大きな要素が2つあります。それが「コントローラーに最適化された操作」です。


本連載の第1回で紹介した『Rogue』は移動が8つのキーに割り振られ、薬を飲むにはqキー、巻物を読むにはrキー、杖を振るにはzキー……と、複雑なキー操作を覚える必要がありました。しかしながら、『トルネコの大冒険』はそこに『ドラゴンクエスト』と同様のウインドウシステムを導入し、すべてのアイテムにアクセスしやすく、かつアイテムの使用方法もすべて共通と、非常にわかりやすいユーザーインターフェースを導入しました。


キャラクターの移動に関してもRボタンを押しながらでキャラクターの斜め移動を実現できる、(『Rogue』では武器の持ち替えが必要だった)弓矢をLボタン一発で飛ばせる、キャラクターの向きはYボタンを押しながらで変えられる……と、SFCのボタン体系で完全にローグライクゲームを実現できる環境を整えたのです。この『トルネコの大冒険』の操作体系は、後の国産ローグライクゲームのデファクトスタンダードとなりました。


さて、『初代』シレンの話に戻りましょう。先述した通り、『初代』シレンは多くの要素を『NetHack』などの伝統的ローグライクから引き継ぎ、盛り込んでいます。それでは、『初代』シレンは『NetHack』クローンなのでしょうか?答えは「No」です。


『初代』シレン(SFC版)と『NetHack』の決定的な違いが、「一度行ったダンジョンの階層に後戻りできるか」です。『NetHack』は複数のダンジョンや拠点を行き来し、最終的には昇天して神になるのを目標にしているのに対し、『初代』シレンは「後戻りのできない一本道のダンジョンをゴールを目指して進む」のが目的です。ここに『NetHack』以降の海外製伝統的ローグライクと、『シレン』をはじめとする国産ローグライクの決定的な差があります。


海外製伝統的ローグライクは長いスパンで武器や防具やアイテムを集め、準備万端にして最後の目標に挑むのに対し、国産ローグライクは多くのものが後戻りのできないダンジョンの中でいかに武具を研ぎ澄まし、訪れたピンチや強敵をどうアイテムを使って切り抜けるか……という、『Rogue』独自のゲーム性を引き継いだものが多いのです。


3DダンジョンRPG(DRPG)の世界でも初期の『ウィザードリィ』から『ダンジョンマスター』『マイトアンドマジック』のようにリアルタイムやオープンワールドという方向性で進化していった世界的なDRPGとは異なり、日本のDRPGは『ウィザードリィ外伝』シリーズをはじめとした「快適なトレジャーハンティング」を軸にしつつ、さまざまな種族や戦闘の要素を盛り込んでいくという独自の進化を遂げてきたのですが、それと似たようなことが「ローグライク」の世界でも起きていたのです。『初代』シレンは、日本のローグライクゲームが世界的な方向性とは異なる方向で進化する先駆けとなったゲームといえるでしょう。


『シレン』のこれまでとこれから


『初代』以降、『シレン』はシリーズ化し、2010年の『シレン5』まではコンスタントに新作がリリースされていました。その中でアイテムの呪い・祝福、食料がおにぎりでなくバナナ、昼と夜が入れ替わるなど、さまざまなシステムを実装または廃止しながら少しずつゲームの完成度を高めていくことになりました……が、そこからはシリーズの長い沈黙が続きました。


この沈黙が破られたのは2020年。『シレン5』がとてつもなく多くの新規要素を追加して、PC(Steam)とニンテンドースイッチに移植されたことでシリーズが再び動き出します。


1ターンでの一喜一憂が起きやすい『シレン』シリーズはゲーム実況に適したゲームであることを制作側も把握しているのか、1画面にゲーム画面でなく所持品や様々な情報を同時表示できる機能を『5Plus』で実装しました。もちろんこれは通常のプレイでも有効な所持アイテムが把握しやすく、有効な機能です。


また、『シレン5』では同じ武具を使い続けると武具が進化し、攻撃力や防御力、特殊能力が強化されるという仕様が登場しています。この機能によって上手く合成や武具強化の巻物を引くことができずとも、武器が自動的に強化されてある程度の敵の強化についていくことができるというメリットが生まれました。


また、『シレン5』の特徴的な要素のひとつが「昼と夜」です。一部のダンジョンには日時経過が実装されており、夜になるとモンスターのラインナップが変わり、普通の攻撃ではほぼダメージが与えられなくなります。モンスターを倒すためにはシレンの「技」を使う必要があるのですが……これを習得するにはランダム出現の技仙人から技を教えてもらうしかありません。そのため、「技」が揃わない&モンスターの使用を把握しにくい序盤では「夜」の難易度がかなり高いのが現実です。「おいでよ混乱波+感電波」といった有用なコンボを習得したり、上級技仙人から階段の位置がわかる「ドコ?カイ弾」を習得すると夜の難易度は一気に下がるのですが……夜は昼とまったく違うゲームになると言ってもいいので、このあたりは好き嫌い分かれるところかもしれません(筆者も久しぶりに夜に挑んだら旅仲間が全滅しました)。


また、『シレン5』には「合成の壷」「強化の壷」「復活の草」ならぬ「合城の壷」「強イヒの壷」「腹活の草」といったジョーク交じりの「まがい物道具」が主にクリア後のダンジョンで大量に出現します。ローグライクゲームには洋の東西を問わず大量のジョークが盛り込まれる傾向があるのですが(『Angband』とか『不思議の幻想郷』とかね)、本作のジョークアイテムの量は常軌を逸しています。


とは言え、「国った時の巻物」のように有用なまがい物道具もある(これをメインウェポンとするダンジョンもある!)ので、上手にこれらのアイテムと付き合っていきましょう。「召介状」?「金滅の巻物」?何のことです……?


そして、2020年版『5Plus』独自のダンジョン「至高への挑戦」をクリアすると手に入ったのが「新作の壷」です。これを押すと2020年当時、長い事「シレン」の新作が出せなかったスタッフの魂の叫びが聞けるのですが……実際のそのメッセージは、読者の皆様の目で確かめて頂きたいと思います(「至高への挑戦」というヤバそうなダンジョン名ですが、初回クリアの難易度は高くないです)。


「新作の壷」の背中を押した人たちがたくさんいたのか、Steam/スイッチ版の『シレン5Plus』から4年後の2024年に、14年ぶりのナンバリング新作として満を持してニンテンドースイッチで発売されたのが『不思議のダンジョン 風来のシレン6 とぐろ島探検録』です。本作では「原点回帰」を謳っており、『5Plus』にあった武具の進化、昼夜システム、そしてまがい物道具などは削除。純粋に武具性能とアイテムの駆使で先に進むことが重要な、前作と比較するとシンプルに進めやすい内容となっています。


『シレン6』で特筆すべきなのは「敵の攻撃力の高さ」。本作は全体的に敵の攻撃力が高く、盾が弱い、あるいは盾がないと序盤の敵から一撃受けただけでもシレンのHPの大半を持っていかれることが珍しくありません。その代わりにHPの自動回復速度が今までのシリーズに比べても早く設定されており、ヒット&アウェイが重要となっています。また、複数の敵に囲まれた時の危険性も今までのシリーズに比べ高いので、そのような状況にならないようアイテムを先んじて使っていくのも重要です。『シレン5』では敵の攻撃力が中盤まではさほどではない上に強力な盾があったこともあり、一撃で受けるダメージが致命傷になることは少ないが、自動回復が最大HPが上がるとともに下がっていくという仕様もあってダメージの蓄積が不利となる仕様でしたが、『シレン6』では敵の一撃が重い代わりに自動回復が容易なので早いターンで敵を殲滅することが求められる仕様といえるでしょう。


『シレン6』は好評を博しており、新規要素を追加するDLCも配信されています。中でもDLC後編の新ダンジョン「超・神髄」はシリーズ最高峰の難易度を誇るダンジョンとなっており、まさに今挑戦している風来人の皆様も多いのではないでしょうか(なお、筆者は未だにその前身の「とぐろ島の神髄」がクリアできてません……)。


こうして、国産ローグライクの雄として今もその名を轟かす『風来のシレン』シリーズ。筆者は本シリーズのさらなる進化や、他プラットフォームへの『6』の移植も今後楽しみでなりません。


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