過去から未来へ「ゲームとコミュニティの在り方」はどう変化していくか…大規模サーバー運営たちから話を聞いたらDiscordの行く末が見えてきた
Game*Spark / 2024年12月25日 17時0分
昨今、“ゲームとそれを取り巻くオンラインコミュニティ事情”は大きな変化の時期を迎えています。今ではSNSはもちろん、多くのゲームが公式サーバーとしてDiscordなどを活用し、独自のコミュニティを持つようになってきました。
そんな中で今回、Discordがメディア向けに「日本におけるゲームとオンラインコミュニケーション」を主題としたトークセッションおよびインタビューを開催しました。
サーバー参加人数37,961人(12月10日時点)Dのiscordサーバー「Valorant-JP」オーナーのベックスドラ氏と、サーバー参加人数24,907人(12月10日時点)の「Overwatch 2-JP」管理人であり「GAMEZINE」編集長でもあるみずイロ氏を招いてのオンラインセッションとなります。
本セッションではDiscordにてユーザー・エクスペリエンス リサーチャーを務めるアレックス・リー氏の司会進行の元、「ゲームとコミュニケーションの在り方」にまつわる複数のテーマで日本のオンラインコミュニティの現状に切り込む形に。本稿ではそんな本セッションの模様をお伝えしていきます。
ゲームとコミュニケーションの在り方。「“Discordというツール”には潜在的ユーザーが多く存在している」
◆Discordを知ったきっかけ
セッションはDiscordのアレックス・リー氏によってベックスドラ氏、みずイロ氏に話を聞く形で進行していきました。まずは両氏がDiscordを知ることになった始まりから。
ベックスドラ氏がDiscordを知ったきっかけは、2016年ごろの『マインクラフト』サーバーとのこと。『マインクラフト』を遊ぶうちにDiscordサーバーに辿り着き、それ以降使用していたと言います。みずイロ氏はeスポーツシーンでコミュニティ大会を運営していた過去から、2017年にDiscordを知り大会の運営ツールとして使い始めたとのことで、行ってきた活動や年代の違いによるアプローチの違いが伺えます。
しかし大規模サーバーを設立したのは2020年前後と、共通している様子。オンライン環境の変化には直近のパンデミックも影響していますが、おふたりは解説から運営をしていく中でその変化を直に感じたとも続けました。
みずイロ氏はこの時期を「Discordが進化したタイミング」だと表現。Discordというオンラインコミュニティの使い方が単なる「掲示板」や「ボイスチャット」から一歩進み、大規模サーバーが多く生まれ始めたタイミングだと答えられました。これからのディスコードの在り方については「ゲーム以外での運用が多くなっていくのでは」と両氏が共通した見解となりました。
ベックスドラ氏はゲームが軸足にあることは前提として「ゲーム以外での運用」も増えてくる兆しを感じられているようで、みずイロ氏も同様に、ゲーマー以外のユーザーにも使用されつつある現状を踏まえ、Discordというツールには「ゲーム以外のコミュニティ」が多く生まれる潜在的な市場が眠っているのではないかと、“まだ参加していないユーザー”に目を向けました。
◆Discordならではの利点
セッションでは現在、未来にとどまらず両氏の過去のゲーム体験も議題となりました。ベックスドラ氏はかつて、ゲームにおけるコミュニケーションでは、主にリアルの友達とLINEなどで交流しゲーム内のテキストチャットを使用していたと言います。
みずイロ氏はベックスドラ氏と年齢が離れていることを挙げつつ、過去には掲示板でメンバー募集をしたりIRC(Internet Relay Chat)やVentriloなどを使用し、ローカルなやりとりを行っていた思い出を述べました。
テキストチャットやボイスチャットを内包したツールとしては「Skype」なども存在していたものの、CPUなどを消費するためあまり使用に適していなかったとのこと。その上でDiscordのような軽く動作するツールが登場したことは非常にありがたいと、Discordがゲームコミュニティに果たした役割を、当事者の目線から述べます。
「PCのリソースを消費しない」ことが、みずイロ氏がDiscordに乗り換えた理由である一方、『マインクラフト』からDiscordに触れるようになったベックスドラ氏は、「そもそもツールとしての選択肢がDiscord一択だった」と言います。しかしLINEでのやりとりから大きく変わった点として「ユーザーネームが本名とは違うものに設定できた」ことを挙げました。オンラインでの距離感が変化したからこそ、匿名性・非匿名性の狭間で“新しい楽しみ”を見つけられたと続けます。
◆サーバー設立の起点とモチベーション
セッションは「Valorant-JP」「Overwatch 2-JP」設立のきっかけに展開し、その中でみずイロ氏は『オーバーウォッチ』への想いを吐露します。
「Overwatch 2-JP」の素となるサーバーは、もともと自らの『オーバーウォッチ』コミュニティ大会用として設立したとのこと。その後スクリム(練習試合)用のサーバーとしても使用し、サーバーの規模を拡大していく中で同作の規模が日本において縮小していく事態に直面しました。多くのユーザーが去る状況を見た上で「『オーバーウォッチ』を支えきれなかった」との悔しさも感じ、リリース予定の『オーバーウォッチ2』が基本無料になるとの発表を受けて、「スクリム用サーバー」ではなく「一般ユーザー向けサーバー」として「Overwatch 2-JP」を作り上げられたそうです。
『オーバーウォッチ』シリーズに対して、みずイロ氏は「ゲームが長く続くことによって、自分自身も長くゲームを楽しめるようになったら嬉しい」という考えがあり、「Overwatch 2-JP」運営にはなにより「ゲームを支えたい」という信念があるようです。さらにはそこから発展して実験的要素も抱いていると続けます。“ゲームを支える”側面からゲーム会社にとってDiscordがどれだけ有用か、マーケティングツールとしてのDiscordサーバーの意義を挙げられました。
たとえば人々が毎日数時間ボイスチャットをしてゲームについて話し合うことへの宣伝効果というのがいかほどのものかと、マーケティングを踏まえた上で“『オーバーウォッチ』を盛り上げていけるかのチャレンジ”だとも考えているようです。
ベックスドラ氏は「Valorant-JP」設立の流れについて、Discordを楽しんでいる中で「Valorantというゲームが出るぞ」と聞き、今までの経験から自分も運営側に回ってみたいと着手し、今に至るようです。“サーバー運営の楽しさ・情熱”については、自分の作ったサーバーで知らない人間同士が仲良くなったりしていくのが楽しく、そこがモチベーションになっていると明かされました。
◆コミュニティ運営について重視する点と“後続へのアドバイス”
そして議題は大規模サーバー運営の内側にまで展開。「サーバー運営の課題について」というテーマにおいては、サーバーのルールやその活動、そして運営としてのアドバイスまでもが語られます。
ベックスドラ氏は「参加しているユーザーさんに自ら動いてもらう」ことに苦慮していることを挙げました。日本サーバー特有かもしれないとしたうえで、ひとつの流れが出来ると大きいが、まずその流れが発生しづらいことを課題のひとつと述べました。
またサーバー内で、いわゆる「排他的な村社会」が発生しないようには最大限に気を使っているとも続けます。心を鬼にして、“新規ユーザーが入りづらい環境を排除”するためのルール設定が重要だとコメント。「Valorant-JP」の強みは現在、ユーザー間でテクニックを高め合えることだといいます。
みずイロ氏は規模が拡大していく中で生まれる「オンラインの負の側面」を排除することを定めているようで、ネット上の悪意といったものを出来る限り排している様子。「オンラインでクローズドなものだからこそアングラになりやすい」と性質を見定めたうえで、なるべく清廉潔白な世界を構築するためにボランティアで動いている運営スタッフと尽力していることを述べ、“自慢のサーバー”足りえているとしました。
今回のトークセッションを聞いて「Valorant-JP」「Overwatch 2-JP」ともに、オンラインゲームコミュニティの手本となるかのような運営の手段、ポリシーを抱いていると感じます。
気になった方はぜひ、「Valorant-JP」「Overwatch 2-JP」および、自らが興味を持つDiscordサーバーをチェックしてみてはどうでしょうか。続いてはインタビューセッションの模様を掲載します。
「オンラインで自分の居場所を見つけるということは一般的になり、どんどん加速していく」
――ルールを設けた上で、それでもコミュニティ運営の中でトラブルが発生してしまった時にはどう対処するのでしょうか。対応するにあたってのポリシーなどがあればお聞かせください。
ベックスドラ氏(以降、ベックスドラ):僕のコミュニティ、「Valorant-JP」を運営していく中でのポリシーとしては、自分の兄妹である小学生くらいの妹を基準にして、「妹が入ってもいいコミュニティ」を心がけています。自分の中では「家族が入っていいコミュニティ」となると相当にハードルが上がるので、暴言や差別用語を始めとした様々な不適切発言を厳しく制限することになりますね。そういったものはBOTで自動削除するようにしています。
その中でNGワードを回避しようとしても、それをふくめて自分の中では97%ほどの精度で削除出来るようになったのではと感じています。残りの3%はボランティアで運営スタッフをやってくださっている方が数十分以内に対処してくれています。NGワードかどうかわかりづらいというギリギリのラインについては、ルール違反者を報告してもらい、報告者とスタッフのみが見られるチャンネルを自動で生成して対処します。そういった発言については非常に厳しいスタンスを取っているでしょう。
みずイロ氏(以降、みずイロ):私も基本的には同じ仕組みですね。まずBOTで対処して、問い合わせチャンネルを使って対応しています。さらに言うなら、最近はボイスチャットの暴言というのも増えていて、喧嘩のようになってしまうことへの対処は非常に難しいです。しかし基本的には喧嘩両成敗として、一発BANではなく一週間のタイムアウトのようなペナルティを課したりもします。ユニークな点を言えば、BANに至ったとしても反省文を書いてくれれば復帰を検討すると言う形を取っています。
イザベル氏:Discordはユーザーが楽しめるオンライン上のプラットフォーム提供を心がけています。プラットフォームが安全であるために、3つのレベルのアクティビティを設定していまして、初めのひとつは「ユーザーコントロール」です。まずは各ユーザーが自ら体験をコントロールしていくレベルですね。
2つ目は「プラットフォームモデレーション」と呼んでおりまして、Discordの規約についてです。定められたガイドラインの中でやり取りされるコンテンツに関して、その規約の中で振る舞っていただくことでセーフティとなる。これが2つ目のレベルになっています。「信頼と安全性」という面でルールが守られるように取り組んでいます。
最後の3つ目のレベルは、「コミュニティによるモデレーション」。おふたりのようにコミュニティを運営されている方が調整いただくことで、セーフティを維持していただく段階です。今回お話しくださっているのは、この3つ目のレベルについてですね。Discordではサーバーのオーナーやモデレーターの方々に、ルールをしっかりと適用できるようなツールも提供しています。
我々が用意したテクノロジー面でも、システムに学習をさせてルールを設定し施行できるような技術も活用していただいており、Discordが安全な環境となるよう尽力してくださっていいます。サーバーオーナーを始めとしたコミュニティの皆様には、本当に感謝していますね。
――Discord、アレックス・リーさまに伺います。Discordという多くのゲーマーに触れる立ち位置から見て、「これからの若いユーザーはどのような特徴を持っている」とお考えでしょうか。
アレックス・リー氏:率直に言って、「似た特徴を持つ」とは言えないほど多種多様なユーザーが出てくるだろうと思っています。これまではどちらかというと、ハードコアな方たちがゲームをやっているという印象があったかもしれませんが、今は本当に細分化されて様々な側面を持つ人たちがゲームを楽しんでいると感じています。
たとえば、友人の子供はeスポーツなどの競技性のあるゲームしかプレイしないらしく、一方でその子の友達はストーリー性のあるゲームしかプレイしないらしいのです。ですので結局、2人は遊ぶときにゲームはしないようです。
また、子供たちの中でも見えるそういった細分化のほかに、ゲーマーとしての自覚はないものの、カジュアルにスマホで遊べるモバイルゲームをやっている人もいます。認識として、それをプレイしながらもゲームだとは考えていないという方もいらっしゃいます。私の知り合いでも「ゲームはやらない」と言いながら、スマホでゲームをしていて「よく考えたら遊んでいた」という答えが返ってきたりもします。
特徴的な所で言うと、若者たちがゲームというものを“自分の創造性や自己表現ができるツール”という風に捉えている傾向があるんです。オープンワールドやサンドボックス、シミュレーションのようなジャンルを「自分のアイデンティティを発揮していく場」にしているのです。
――eスポーツシーンでは、学生コミュニティの活動も盛んです。Discordがそういったコミュニティをサポートしたという事例があればお聞かせください。
みずイロ:私が知っている範囲でお話すると、最近は東大のeスポーツサークルさんとお話したことがあります。いわゆるインカレなのですが、外部の大学eスポーツサークル間で交流をするのにDiscordがメインの活動の場所になっているというのは、お聞きしたことがありますね。Discordがサポートしているというよりも、彼らが上手くDiscordを使用している印象です。その中で学生eスポーツという世界を作り上げられているようですね。
ベックスドラ:僕にとっては、学生の方たちがDiscordを使っているのは“すでに前提となっている”と感じています。「Valorant-JP」では、学生さん自らがホストとなって開いたコミュニティ大会を宣伝しに来てくださったりと、学生自体が大会を主催する流れがあると感じています。
――ベックスドラ氏、みずイロ氏に質問です。セッションと被る部分もありますが、パンデミックでオンラインが変化していく中、運営サイドとしてどのようなことを心がけられていましたか。また「これからのオンラインコミュニティ」はどう変化されると予想していらっしゃいますか?
ベックスドラ:パンデミックでは、コミュニティを利用するユーザーが急激に増え、それに伴い悪質行為(荒らし等)も増加しました。その中で我々の運営サイドではDiscord BOTやユーザーからの報告体制を整え、参加者の方々が安全で安心してご利用いただけるようなコミュニティになるよう心掛けました。
これからのオンラインコミュニティについては、現実社会に先駆けて多様性が認められ、国外との交流がさらに活発になると考えています。現時点でもその傾向が見られますが、オンラインでは国境を越えてコミュニケーションを取ることが可能です。
言語の壁はまだ残っていますが、AIによる自動翻訳の進化によりいずれその壁もなくなり、地理的な制約を超えたつながりが今以上に増えていくと考えております!
みずイロ:『オーバーウォッチ』の視点でお話すると、コロナ禍の2020年からOW2が発売するまでの2022年はユーザー数が減っていき、ランクマッチの待ち時間が20分以上になったりなど、あまり快適に遊べるという雰囲気ではありませんでした。これは新型コロナウイルスの蔓延による影響ではなく、発売から4年経って古くなると共に『Apex Legends』や『VALORANT』などにユーザーが移行して起きた『オーバーウォッチ』の終焉だったのだと思っています。
パンデミックはオンラインFPSゲームやeスポーツという視点で見た時、巣ごもり需要によりPCゲーマーが増え、『Apex Legends』『VALORANT』の流行によって爆発的にユーザー数が増えたタイミングだったと思います。その中で私は2022年の『オーバーウォッチ2』の発売に向けて準備をしていました。次回はもっと長く遊べるようにユーザーベースで支えられる施策としてDiscordを活用しようと思ったんです。
ベックスドラさんに相談して、すでにあったDiscordサーバーのチャンネルを一般ユーザーが交流できるDiscordに改変し、この巣ごもり需要で増えたユーザーを抱えられるDiscordサーバーを作成することにしました。また、このオーバーウォッチ2の発売タイミングで増えた初心者ユーザーをコミュニティとして歓迎できるように、チャンネル名に「初心者OK」などがついたチャンネルを作成したりするなど、初心者の方でもサーバーで活動しやすいムードを作っていけたと思っています。
オンラインコミュニティの変化については、インターネットが当たり前になりスマートフォンが生活に必須になったこの世の中にとって、現実のコミュニティだけではなくオンラインで自分の居場所を見つけるという行為が一般的になり、どんどん加速していくのではないかと思っています。
小さいコミュニティから大きいコミュニティ、VRチャットのようなメタバースからDiscordのような通話コミュニティまで多様なコミュニティが作られ、1日の余暇時間をそこで過ごす人が増えていくと思っています。映画の世界ではないですが、いずれはインフラのようになっていくのではないかと想像してワクワクしています。
――今回は、ありがとうございました!
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