【特集】PS版初代『リッジレーサー』発売30周年!リアルとカジュアルで揺れ動いたシリーズ作を今追いかける
Game*Spark / 2025年1月5日 13時0分
1994年12月3日の初代PlayStation向けのローンチタイトルとして発売された、ナムコ(現、バンダイナムコエンターテインメント)のレーシングゲーム『リッジレーサー』は発売30周年を迎えました。本記事では『リッジレーサー』シリーズが辿ったゲームバランスやリアリティの変化について解説していきます。
本記事を執筆しようと思い立ったのは、たまたま立ち寄ったゲームセンターで初代『リッジレーサー』のアーケード版を見つけてプレイしてみたところ、かつて遊んだPS版より「グラフィックの処理」や「バランス」「挙動」が大きく違うと気付いたことが発端です。そこでシリーズ作品を最初から可能な限り遊び直してみると、あるところで大幅に変化していると気づいたことも、この記事を書く原動力となりました。次からは『リッジレーサー』シリーズの歴史を追って、ゲームプレイがどのように変化したのか、現状の最終作はどんなものだったのか、今からでも楽しめる作品であるのか解説していきます。
【2024年~2025年】Game*Spark年末年始特集はこちら!アーケード版とPS版の初代『リッジレーサー』
まずは1993年に稼働したオリジナルとなるアーケード版『リッジレーサー』について説明しましょう。筐体は、シンプルにハンドルとアクセル・ブレーキ、そして前後のシフトレバーで構成されたSD筐体と、クラッチペダルとHパターンのシフトレバーを搭載し、ハンドルがより多く回転するDX筐体の他に、3つのディスプレイを連結させたDX筐体、そしてフルスケールタイプと大まかに分けて4種類あります。
筆者がプレイできたのはSD筐体でした。ハンドル+アクセル・ブレーキペダルの操作は、コーナーや敵車の隙間を適切な角度で気持ち良くすり抜けられることが嬉しく、ハンドルに角度を付けても手を離せば中央に戻る、いわゆる「車を運転する楽しさ」を遅れながらも初めて知ることができる体験でした。
グラフィック面に関しても、60fps動作だけでなくコースのテクスチャも異なるほか、カウント時にラウンドガールだけでなくメカニックが視界を横切ること、エンジン音を筆頭とした効果音が違うこと、描画のメカニズムそのものが違うためか体感で敵車や壁と接触した時の速度低下から復帰しやすいことなどが挙げられます。
特に挙動が大幅に違うと思えたのがドリフトでした。アーケード版は体感でドリフト状態が短く、復帰を考えて早めにカウンターステアを当てなければなりません。一方でPS版は方向キーで操作することも考えられているのかドリフト状態が長く続くため、姿勢を戻す時間に余裕があります。
他にも、PS版は標準コントローラーだと方向キーを細かく入力することで調整しなければならないため車の隙間を抜けるのが難しく、様々なデバイスが発展した2024年現在からプレイすると扱いづらさを強く感じてしまいます。そこで活用できるのがネジコンです。
ネジコンは、中央回転部(ねじり)、IボタンとIIボタン、そしてLボタンがアナログ入力可能。これを用いればPS版でもハンドルだけでなく、アクセルやブレーキもアナログ操作が可能なため比較的原作ライクに操作できます。
ネジコンをなんとか入手して初代PSと互換機能があるPS2でプレイしてみると、格段に運転しやすくなったもののPS版の長く続くドリフトを制御するのは難しく、アーケード版の感触とは違った印象を受けました。
また、初代PS版だけでなく『R4 -RIDGE RACER TYPE 4-』のボーナスディスクに収録されている60fps動作のハイスペック版『リッジレーサー』もプレイしてみると、アーケード版に近くなるというより文字通りPS版をパワーアップさせたものと感じられました。PS版は1994年12月当時としてアーケード版をそのまま遜色ない形で移植したことは確かなのですが、こうやって細かく見てみるとPS向けに再構成したタイトルではないかとも思えます。
リアリティをバランス良く取り入れた90年代の『リッジレーサー』シリーズ
1994年には『リッジレーサー2』とそのPS版、1995年には新コースを追加した『リッジレーサー レボリューション』が登場しました。『リッジレーサー2』と『リッジレーサー レボリューション』の両タイトルとも通信対戦対応やバックミラーの追加、新コースや新機能追加を除けば前作から挙動に大きな変化がないことから、ある意味ではマイナーチェンジと言ってもいいかもしれません。
1995年にはシリーズ3作目としてアーケード向けに『レイブレーサー』が稼働。PS向けにも1996年12月に『レイジレーサー』が登場し、両タイトルともリアリティが強まります。両タイトルともスリップストリームが実装され、前を走る車の後ろに付くことに意味が生まれると共に、敵車との接触時の挙動とサウンドなどが変化し、多少リアリティが高まりました。特に『レイブレーサー』では敵車に接触してもバウンドし過ぎず、納得感がある良い調整です。
また、『レイブレーサー』では一部筐体に今で言う「フォースフィードバック」に近い「リアクティブステアリング」が搭載されている筐体もありました(ただし、筆者がプレイした筐体は残念ながら作動していなかった)。しかしながら、CITYやMOUNTAINコースの大ジャンプを考慮すると、コースとしてのリアリティは抑え気味です。
一方で『レイジレーサー』ではドリフト挙動もリアリティが強く現れています。ブレーキドリフトとアクセルドリフトの2つが存在するだけでなく、速度低下のペナルティも高く、基本的にドリフトよりもアクセル+ブレーキワークによるグリップ走行のほうがスムーズにコーナーを抜けられるようになるほどです(タイアのグリップ・ドリフト設定もあるほど)。さらに横浜ゴムとのタイアップも行われ、ゲーム中に企業ロゴだけでなくホイールブランドの「ADVAN Racing」の看板も登場していました。
1998年発売の『R4 -RIDGE RACER TYPE 4-』は、タイヤの調整(グリップ・ドリフト)など前作からオミットされた要素が多いものの、ドリフト車とグリップ車に車種が分けられると共に、グリップ車のグリップ走行自体も簡略化。ただアクセルを離すだけで曲がれるシンプルなものとなりました。それでもドリフト自体のリアリティは損なわれておらず、状況によってアクセルドリフトとブレーキドリフトを使い分けることが求められます。
最高難度を誇るDIG RACING TEAMでの「シューティングフープス」では、マシンの挙動を熟知しておくのはもちろん、オーバル風のコースを速度低下を避けるよう慎重に旋回しながら精密なライン取りを狙い、タイムを極限まで切り詰めなければ先頭に追いつけない……というほどにシビアです。
しかし前作より上手く簡略されながらストーリー要素も備え、より面白さが伝わりやすくなった『リッジレーサー』シリーズ作と言えるでしょう。余談ですが、1999年(平成11年)3月期のナムコ連結決算短信によると『R4 -RIDGE RACER TYPE 4-』は国内で90万本を超えるほどの売り上げであったそうです。
リアリティの頂点に達した『リッジレーサーV』と『R: RACING EVOLUTION』
PS2世代に入るとリアリティへの追求はついに舞台となる街の姿へと広がります。2000年3月4日発売のPS2ローンチタイトルとなった『リッジレーサーV』ではデュアルショック2による感圧式ボタンのアクセル/ブレーキ操作や、ハンドルを切った時の車体のロール表現、長々と続かないリアル寄りのドリフト挙動、サスペンションの存在を感じる車体の振動などの表現も豊かになりました。
車の挙動だけでなく、舞台となるリッジシティの景観もよりリアリティ溢れるものとなり、ビジュアルデザイン担当の菅野晶人氏が語った開発者リレーエッセイによれば、「実在の様々な都市景観を照らし合わせられる、許容範囲の広いゲームビジュアル」であるとのこと。実際にフリーランでコースの細部を見てみると、高速道路の構造やガードレールの内側に存在する街灯など、現実の街で見かけそうな雰囲気を強く表現していることがわかります。
本作はコンソール版リリース後に、登場車種のバランス調整を行いハンドル+ペダル操作に対応したアーケード版『リッジレーサーV アーケードバトル』が2000年11月に稼働しています。『リッジレーサーV』は登場車種の性能差も含めて難易度が高いと感じましたが、PS2ローンチタイトルでありながら驚くべき高い完成度とリアリティを持ったタイトルであると思えます。
このリアリティへの追求は最終的に、『リッジレーサー』シリーズのエモーションと『MotoGP』で培われたリアリティを融合させた2003年発売の『R: RACING EVOLUTION』において頂点を迎えたと言っても過言ではないでしょう。
2003年11月にPS2/GC/Xbox向けに発売した『R: RACING EVOLUTION』はレースシムであり、直接的に『リッジレーサー』シリーズと関係ありませんが、前述の要素もあるためここでは軽めに触れておきます。
『R: RACING EVOLUTION』はカーシムでありながらも『R4』的なレーサーのストーリー要素や『リッジ』シリーズを彷彿とさせる軽快な音楽、走行中でもブレーキバランスやステアリングの感度などパーツ性能を調整できるリアルタイムセッティングに加え、レース中に他のドライバーや監督の無線が飛び交う『エースコンバット』譲りの無線システムを搭載するなど、カーシムとしてはある意味理想的な環境を表現したタイトルでした。
カジュアル路線に大きく舵を切った『リッジレーサーズ』以降
2004年12月12日発売のPSPローンチタイトルとして登場した『リッジレーサーズ』は、PS版初代『リッジレーサー』のカジュアルさをフィーチャーし、2004年当時として万人に届くような作風になりました。
過去の『リッジレーサー』シリーズから人気コースと車種を『リッジレーサーズ』向けに作り直すと共に、新曲とリミックス、そして原作の楽曲を一部収録。これまで培ってきたリアリティを一旦排除し、ドリフトに対するリターンと逆転要素に繋がるニトロシステムを実装したことでレース展開自体も大きく変わりました。
またバランス面で言えば特にドリフト挙動が大幅に変化し、PS版初代『リッジレーサー』的なドリフトを発生させればコーナーのラインに沿って曲がると共に、ドリフト状態も長く続く仕様へと戻ったのです。
これらの施策によってゲームスピードはより速くなり、遊びやすさは感圧ボタンがないPSPであっても損なわれませんでした。後の作品が本作のシステムをベースにしたことを思うと、シリーズ作としてある意味リブートであると捉えられるほどの変貌を遂げています。
しかしながら、敵のCPU車と自車を含め、見えないライン上を走るスロットカーのような強いドリフト補正が目立ってしまっていることや、事実上減速の必要性がなくなってしまったために、コーナリングの駆け引きの幅が狭まってしまうなどの問題も同時に生まれています(ドリフトによるニトロチャージに重きが置かれてしまったため、グリップ車が消滅)。
『リッジレーサーズ』は『リッジレーサー』シリーズのパブリックイメージにあると思われる「気持ち良いドリフト挙動」を手に入れられたものの、それと引き換えに過去作で存在したアクセル/ブレーキワークを筆頭とする自動車の特性を活かした駆け引きが失われていたのです。
この作風は、2005年11月22日に北米でXbox 360のローンチタイトルとして発売した『リッジレーサー6』においても継続。水増し感は否めないですが、100以上あるレースから自由にツアーを設定できるワールドエクスプローラーモードやオンライン対戦機能などを備えています。
しかしながら、『リッジレーサーズ』譲りのシステムなためかCPU車の理不尽なほどの補正が大画面で目立ち過ぎてしまうことや(超高速ライン移動、ニトロを使わない超加速など)、直線でドリフトを持続させることで得る継続的なニトロチャージなど……全体としては良く出来ているものの、プレイしていてバランスを欠いていると思える部分もありました。
また2006年9月14日には『リッジレーサーズ2』がPSP向けに発売。バランス面ではほとんど前作と変わらないものの、『R4 -RIDGE RACER TYPE 4-』や『レイジレーサー』で未実装だったコースの一部が新たに追加。ある種の完全版とも言える内容でした。
2006年11月11日には、PS3向けのローンチタイトルとして前作『6』を更に調整した『リッジレーサー7』がリリース。前作『6』において、あまりにも強かったドリフトやCPU車の補正、ニトロのチャージ仕様がマイルドに調整され、スリップストリーム状態の可視化、パーツによる自車のカスタマイズ、ハンコン対応などカーレーシング要素が復活しました。
ニトロはそのまま搭載されているため、ゲームプレイのテンポの早さに変わりはありません。しかし前述の要素によりレース展開にある程度深みが生まれ、リッジステイトグランプリのレースも多過ぎず長すぎないことも含め、ナンバリング新作に相応しいタイトルとなっています。
2010年代に入ると、2011年2月に3DS向けの『リッジレーサー3D』が、12月にPS Vita向けの『リッジレーサー』がそれぞれローンチタイトルとしてリリース。そして事実上最終作となるのが、2012年3月27日に海外向けタイトルとして発売された『Ridge Racer Unbounded』です。
これは『FlatOut』シリーズで知られるBugbear Entertainmentが開発し、ゲームプレイそのものが大幅に変化した作品です。まず自車の旋回性能自体も高速域に入ると曲がりにくくなり、コーナーでは減速をしっかり行わなければドリフトボタンを押しても曲がりきれない調整になっています。本作ではチャージしたニトロを発動させて敵車へ接触すると破壊出来ることも特徴で、まるで『バーンアウト』やBugbearの『FlatOut』シリーズを彷彿とさせるシステムでした。
実際にプレイしてみると、『リッジレーサー』シリーズや『FlatOut』シリーズよりも厳しい旋回性能やドリフトによって難易度は高め。自車の慣性も『FlatOut』シリーズに近いのですが『Ridge Racer Unbounded』はかなり曲がりにくい調整になっています。
またニトロによる敵車撃破なども、これまで圧倒的有利な補正を取られていたCPU車に一矢報いることが出来て気持ち良いものの、速度の有利を取れるまでいけるかと言われれば厳しいバランスです。破壊を伴う街中の激しいストリートレースという題材の面白さ、グラフィックが現代から見ても比較的美麗であることを考えると「過度な難易度設定が惜しまれる……」と思います。
加えて『FlatOut』シリーズのような破壊に溢れながらも底抜けた陽気さもないことを考慮に入れると、『リッジレーサー』シリーズとしても、『FlatOut』シリーズの延長線上から見ても掟破りなシリアスさを持つ異質なタイトルだと思えます。
カジュアル一辺倒ではない『リッジレーサー』シリーズ
こうしてシリーズを、アーケード作品を含めて改めて可能な限りプレイ直してみると、90年代までの『リッジレーサー』シリーズはカジュアルなドリフトだけでない、自動車そのもののリアルな表現も狙っていた作品であることを発見できました。
カーレーシングゲームやドライブシムが大きく発展した現在からみると、カジュアルとリアルの両方を取り入れた初代から『リッジレーサーV』まで、レースの勝敗が純粋にプレイヤーのテクニックに寄るため遊びやすかったことが驚きです。特にアーケード版はハンドルとアクセル・ブレーキペダルを扱うため「自動車本来の面白さ」も同時に味わえたこともあり、入力デバイスがゲームの面白さに直結するのかと改めて思い知らされました。
一方で『リッジレーサーズ』以降のタイトルは、今見てみればカジュアルに寄せすぎているため、CPU車の補正やニトロのリベンジシステムが気になって遊びづらいとも思えます。「『リッジレーサー』シリーズはニトロによって深みがなくなってしまった」と語られることが多いのですが、ニトロだけでなく本来持っていたリアリティも同時に消えてしまったことも、ある意味で特筆すべき点と感じます。
しかしながら『リッジレーサー7』においてカーカスタム要素の復活によって、少なくともカジュアル一辺倒にならなかったことを考慮すると、後年の作品においてそのカスタマイズ要素がほとんど継承されなかったことも問題のひとつであるように思えます。
自動車のリアルなテイストを持ちつつコーナーをドリフトで曲がることで上手さを感じられる、パッド/ステアリングコントローラー(ハンコン)でも遊べる『リッジレーサー』は、シリーズの歩みが止まってしまった今でも求められていると思います(Codemastersの『GRID』シリーズなどリアル一辺倒でない作品も多いため)。元気の『首都高バトル』新作のように、バンダイナムコの『リッジレーサー』新作や過去作の移植・リメイクがいつか登場してくれることを願ってやみません。
ここまで各シリーズの特徴を述べてきましたが、今現在『リッジレーサー』過去作を遊ぶにはいくつかの方法があります。プラットフォームは一貫していませんが、移植/後方互換という形である程度プレイ可能です。『R4 -RIDGE RACER TYPE 4-』と『リッジレーサーズ2』はPS5/PS4で、『リッジレーサー6』はXbox Series X|S/Xbox Oneにおいて後方互換に対応しており、ダウンロード販売もされています。興味を持ち始めたり再び遊び直してみたいと思ったユーザーは、この機会に『リッジレーサー』をプレイしてみてはいかがでしょうか。
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