憲剛の最新本を立ち読み!「史上最高の中村憲剛」(13/20)
ゲキサカ / 2016年4月30日 13時0分
川崎フロンターレのMF中村憲剛の南アフリカW杯から現在までの5年半を描いた『残心』(飯尾篤史著、講談社刊)が4月16日に発売となった。発刊を記念しゲキサカ読者だけに書籍の一部を公開! 発売日から20日間、毎朝7時30分に掲載していく。
「トップ下に自信がなかった」<上>
それは、初めて聞く言葉だった。
「正直に言うと、これまではトップ下でのプレーに自信がなかったんです。“トップ下・中村憲剛”に対して、ほかでもない自分自身が、あまり評価していなかったので――」
中村がゴールを量産しはじめてひと月ほどが経った8月8日、僕はクラブハウスの一室で彼へのインタビューに臨んでいた。
インタビューのテーマは「絶好調の理由に迫る」というものだった。
ボランチへのこだわりは、それまでに何度も耳にしていた。だが一方で、トップ下は学生時代からプロ1年目まで務めていたポジションで、日本代表でもトップ下として国際試合を何度も戦ってきている。それなのに、今までは自信がなかった、と中村は口にした。
自信がないままにプレーしているなんて、想像もしていなかった。
「そりゃそうですよ。“自信がない”なんてことを口にするのは、あまりに情けなさすぎる。本当の自信がついた今だからこそ、言えることだから」
トラウマになっていたのは、プロ1年目の経験だった。
「あの頃は、間で受けるとか、今のようにプレーのイメージを明確に描けてなかったから、ふっ飛ばされたり、潰されたりしていて。“J2でもこうなんだから、上のレベルでは厳しいだろうな”って、そのとき思ったんですけど、そのイメージがずっと頭にこびりついていて」
プロ2年目になって、ボランチにコンバートされた。
ボランチはトップ下と比べると、相手からのプレッシャーが弱いため、フリーで前を向きやすい。360度いろんなところにパスを出せるため、すぐにこのポジションが気に入った。
日本代表でイビチャ・オシムにボランチのレギュラーとして起用されたことも、ボランチこそが天職だという認識を深める要因になった。
だが、その後の岡田体制、ザッケローニ体制では、中村はトップ下で使われてきた。
「岡田さんが“憲剛システム”と言って、自分のためのシフトを組んでくれても、ザックさんに“憲剛の適性はトップ下だ”と言われても、自分自身が半信半疑というか。トップ下は本来、花形のポジションなのに、“ボランチ失格”を言いわたされたような気がして、うーんって思いながらプレーしていたんです」
23歳の自分の中にはカケラもないと思っていたトップ下のスタイルが、32歳にしてようやく明確な像を結ぶようになったのだ。
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