[MOM425]日本体育大GK福井光輝(3年)_“我慢”でPK正面キャッチ、遅れてきたヒーロー
ゲキサカ / 2016年12月14日 16時27分
「これはもうあてにならねーな……」。余計なことを考えず、目前の選手のみに集中することにした。しかし、そんな思いは裏目に出る。止めるはずだった1人目に決められたこともあり、はやる気持ちを抑えきれず。動き出しが早くなってしまったのだ。2人目、3人目もいずれも逆を突かれて決められた。4人目はクロスバーに当たったため事なきを得たが、実際に飛んでいたのは違うコースだった。
この時点でPK3-3。自分自身では動き出しが早い実感はなく、なぜ逆を突かれているかわからなかった。救いを求めた視線の先にいたのは百戦錬磨の指揮官。鈴木政一監督は、第2GKの長谷川へ口頭で伝えると、“伝令役”となった長谷川が福井へ向かって「落ち着け、落ち着け」とジェスチャーを送った。
第2GKを担っていたときはベンチで鈴木監督の言葉に耳を傾け、「あれ、速くないか?」と言われれば、長谷川に伝えていた。今度はそれを受け取る立場。指揮官からの“伝言”で冷静さを取り戻した。
先攻・日体大の5人目が決め、PK4-3で迎えた関西学院大の5人目は、10番を背負うMF徳永裕大(4年=G大阪ユース)。落ち着きを取り戻した守護神は「10番で技巧派という感じがあったので、普通のことはしてこないなと。それで結構、我慢できました」。5人目にして、ようやく我慢し、正面で動かずに耐えた。はやる気持ちを抑え、キッカーをじっと見た。
徳永の選択はチップキック。緩やかに正面に飛んできたボールを福井は難なくキャッチした。この瞬間に日体大の勝利が決定。殊勲の守護神はボール片手にガッツポーズで味方と歓喜した。
一躍ヒーローとなったGKだが、理想の筋書きとは違ったようだ。「正直、キャッチか……みたいなのがありましたよ。ドーンと止めたかった。そういうのがかっこよくないですか? でもそれを我慢したから止めたと周りが思ってくれたら、自分はそれでいいです」とおどけて話す。
耐える時間が長かった今シーズン。インカレでの活躍は「想像していなかったです」と正直に語る。それでも「このままだとやばいなと思いながら悔しい部分はありました。けど、チームのことだけを考えてということでやってきたので。そしていざ試合になったら、自分がやってきたことは間違いではなかったんだと思えました」と胸を張った。
キャリア初の全国舞台でヒーローとなる活躍をみせた。鈴木監督は「今のところはフクでいく」と今後の試合でも福井を起用すると明言した。悔しさを乗り越えつかんだ日体大の正守護神の座。簡単に長谷川へ譲るわけにはいかない。
「長谷川に出会ってなかったら、今の自分はいなかったと思うくらいに尊敬しています。リスペクトしないと自分も上手くなりませんし、ハセにはハセのいいところもあって、自分には自分のいいところがある。そこをお互いが刺激し合えば、二人でプロにいけるかなと思っているので」
たった一つの椅子を巡るチーム内での熾烈な争い。そこを制してヒーローになった守護神。日体大のために身を挺し、この椅子に座り続けるつもりでいる。
(取材・文 片岡涼)●第65回全日本大学選手権(インカレ)特集
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