わずか2分間の全国……佐野日大指揮官が「最後の賭け」で送り出した予選レギュラーのCB
ゲキサカ / 2017年1月7日 23時6分
[1.7 全国高校選手権準決勝 前橋育英1-0佐野日大 埼玉]
切り札は栃木県予選全試合で出場した主力CBだった。後半43分、0-1とリードされた佐野日大高の海老沼秀樹監督は特別な思いとともに、DF原悠斗(3年)を前線へ送り出した。
直前に交わされた短い言葉。
「オマエならできる!」
「頑張ります!」
1点を追う後半残り15分から佐野日大はこれまでの守りを固めて速攻を狙うスタイルから変えて、前へ前への積極サッカーで前橋育英高に圧力を懸けた。「守備的」と揶揄されてきた選手たちが攻撃で前橋育英ゴールを脅かす。海老沼監督は「0-1のまま終わりたくなくて。最後、「あの子たちにもできるんだぞ』というのを皆さんに見てもらいたいと」。
なかなかシュートまでは行くことができていなかったが、それでも前橋育英DFはギリギリのカバーリングで危機を脱するような状況が続く。そこへ畳み掛けるように、180cmDF原が投入された。
海老沼監督はその起用について溢れ出る涙で言葉を詰まらせながら説明していた。「県大会からレギュラーだった子なんですけど。腐らずに最後まで一生懸命やってくれて…間の練習とかも…(パワープレー要員で)オマエ行くからなとずっと言っていて。(最後は彼に)賭けました」。
原は群馬県出身。相手GK月田啓や決勝点を決めたMF高沢颯は旧知の存在だった。予選同様に全国大会でも出場したいという思いを抱きながら、「諦めたら終わりなんで、やってやるという気持ちで。(悔しい)気持ち抑えて、我慢してやってきました。いつ出てもいいプレーできるように、調整してきたと思っている。最後までやることをやったと思います」というDFは地元の強敵相手に思いをぶつける。
パワープレーでの出場の準備もしてきた。自身の高さでチームを救うことだけを考えていた。だが、その思いは実らず、0-1で敗退が決定。原は「時間は少なかったんですけど、チームが負けていてどうにかしたかったんですけど、できなくて残念です」と唇を噛んだ。予選の主力CBの全国大会はわずか2分間の出場で幕を閉じた。
「予選全部出たので。全国大会出たかったですね」
これが紛れもない本心だ。足首の靭帯が切れた状態だという原は痛みを堪えながら、出番を得るために練習でアピールしてきた。だが、予選後にややコンディションを落としたこともあり、一度失ったポジションを奪い返すことはできず。全国大会で活躍することはできなかった。
それでも指揮官に対しては感謝の念しかない。「1年生のときからお世話になっているんで、一緒に勝てればいいと思っていた。信じてついてきたので良かった」。130人を越える部員がいる中、全国大会で登録されているのは30名。1試合でピッチに立てるのは先発11名と交代選手のみだ。チームを代表してピッチに立ち、走り回った原の数分間、そのために取り組んできた日々は間違いなく貴重。結果を出すことはできなかったが、原、そして敗れた佐野日大イレブンは悔しさと頑張った日々を自信に、次のステージでの活躍を目指す。
(写真協力『高校サッカー年鑑』)
(取材・文 吉田太郎)
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