「東京五輪への推薦状」第39回:サイズ、スピード、テクニック。市立船橋のファンタジスタ西堂久俊は「想定外」
ゲキサカ / 2017年5月10日 12時5分
2020年東京五輪まであと4年。東京五輪男子サッカー競技への出場資格を持つ1997年生まれ以降の「東京五輪世代」において、代表未招集の注目選手たちをピックアップ
入学前からその名前は知っていた。「三井千葉SCジュニアユースに凄い選手がいる」という話が聞こえてきたからだ。昨年、「市立船橋高の新1年」の誰が話題にのぼったときも必ず浮上してきた名前である。U-16日本代表の候補の候補、つまりラージグループのリストに名前が載っていた時期もある。しかし、そんな期待の男である西堂久俊は入学初年度の昨シーズン、ほとんど輝きを見せることができなかった。
原因はオスグッド。成長期のスポーツ選手にしばしば起こるヒザの疾患に悩まされ続けていた。
「4月に入学早々から(オスグッドに)なってしまって、夏に一度は復帰したんですが、結局また痛みが出て、11月くらいまで休むことになってしまった」(西堂)
同学年のMF郡司篤也らが華々しい活躍を見せていた裏側で、何とも苦しいシーズンを送ることになってしまった。
だが、今季は違う。市立船橋入学を決める一つの理由だった高円宮杯プレミアリーグEASTに開幕からコンスタントに出場を重ね、ここまでの5試合すべてに出場。レギュラーに定着しつつある。プレーからも少しずつ自信が感じられるようになってきており、朝岡隆蔵監督も「もっと良くなる」と期待を込めながらその成長を見守っている。
「こちらの想定外のことをしてくれる選手。教えられないボールの持ち方ができるので、次のタッチのタイミングとかが読めない」(朝岡監督)
ボールの持ち方は確かに独特だ。カメラで追い掛けていると「あれ?」という瞬間が出てくるので、DFにしてみると間違いなく対応が難しい選手だろう。元ブラジル代表FWロナウジーニョに「ちっちゃい頃から」憧れて技を磨いてきたと言うが、意外性のあるタッチとプレー選択は、確かに王国のファンタジスタを思い出させるものがある。
「相手どう来たら、どう行くということを意識している」というドリブルは、いち早く日本的なドリルトレーニング至上主義からの脱却を主張した伝統を持つ三井千葉SC出身の選手らしいもの。高校生でオスグッドになったことからも分かるように、成長のスパートが少し遅れて来て身長もグッと伸びたところのため、まだまだ伸びしろはある。底が知れないと言ってもいいかもしれない。
最も伸ばすべき部分はフィニッシュだろう。5試合に出場(先発は3試合)しながら、刻んだ得点数はゼロ。シュート数も明らかに少ない。本人もこの課題には自覚的で、利き足とは逆のシュートなど武器も増やしていきたい考えだ。ここから始まる“負けたら敗退”の高校総体予選のプレッシャーの中で、いかにゴールネットを揺らしていけるかは、その成長を計るバロメーターになりそうだ。
「サイズ、スピード、テクニックがあって、しかも左利き」(朝岡監督)。ボールを持っている姿を見ればすぐに分かる圧倒的な素材感の持ち主であり、昨年の主軸であるU-20日本代表MF原輝綺(新潟)も「西堂は上手い」と認めるほど。市船が誇る“想定外を起こすファンタジスタ”が隠忍自重を強いられた一年から一転、どういうシーズンを送るのか。大化けの日は、そう遠くないかもしれない。
執筆者紹介:川端暁彦
サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』元編集長。2004年の『エル・ゴラッソ』創刊以前から育成年代を中心とした取材活動を行ってきた。現在はフリーランスの編集者兼ライターとして活動し、各種媒体に寄稿。著書『Jの新人』(東邦出版)。▼関連リンク
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