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おれが本気でサッカーをする理由(『それ自体が奇跡』最終回)

ゲキサカ / 2018年1月9日 20時0分

おれが本気でサッカーをする理由(『それ自体が奇跡』最終回)

30歳、結婚3年目、共働き。
夫は本気のサッカーを目指し、妻は違う男に惹かれ始めた。
初めて訪れる危機を二人は乗り越えられるのか!?
夢を追うすべての男女に贈る、話題の小説「それ自体が奇跡」をゲキサカで特別公開!


始まりの日

「もう一年、やりたいんだよ」と貢が言い、
「いいんじゃない?」と綾が言う。
 貢と綾。田口夫妻。結婚四年めになる。
 みつば南団地D棟五〇一号室。ダイニングテーブルを挟んで座っている。向き合っている。テレビが見やすいように配置された居間のソファでは向き合えないから、こちらにした。
 午後八時。二人にしては早い。この時刻に二人がそろい、夕食をすませてそのイスに座れることはあまりない。今日だから、それが可能になった。
「うまく言えないけど、今年の一年は、去年の一年とはちがうような気がするんだよ」
「どうちがうの?」
「何だろう。ちゃんとやれそうな気がする。というか、ちゃんとやる」
「ちゃんと」
「そう。食事もちゃんととる。栄養を考えて、とる。この歳になった今だからこそ、そうする。本気で一年やってみて、わかったんだ。そうするべきだって」
「食べものは、大事よね」
「うん。で、ここからが本気の相談なんだけど」
「何?」
「立花さんがさ、おれがその気ならスポンサーの会社を紹介してくれるって言うんだよ」
「紹介?」
「そう。スポンサーといっても、あの文具会社じゃなく。前から支援してくれてたスポーツ用品の小売り会社。サッカーに限らず、スポーツ全般を扱ってるっていう」
「そこに入れるの?」
「たぶん」
「会社は、やめるってこと?」
「うん。小売りだからこれまでの経験は活かせるし、商品も身近なものだから、おれでもやれそうだと思って」
 貢は綾を見る。綾も貢を見る。ダイニングキッチンは狭い。だからテーブルも二人用。小さい。その分、貢と綾は近い。
「やりたいの?」と綾が言い、
「やりたい」と貢が言う。
「どうしてもやりたいの?」
「どうしてもやりたい」
「一人でもやれる?」
「ん?」
「こないだ、ちょっと話したでしょ? 名古屋店のメンズ館。柴山さんに聞いたあれ」
「あぁ。各店から人を募集するっていう」
「そう。わたし、やってみようかと思ってる」
「え?」
「採用されるかわからないけど、また手を挙げるつもり」
「本気?」
「本気。本気のサッカーと同じくらい本気。話を聞いたときは無理だと思ったけど、それからいろいろ考えた。そしたら、無理でもないような気がしてきた。無理だと決めつけるのは変」
「二年、だっけ」
「うん。そのあとも、一応、希望を聞いてくれるみたいだけど、さすがにそこまでは考えてない。今は、二年でいいと思ってる」
「名古屋。遠くない?」
「遠いけど、近いよ。月に一度ぐらいは帰ってくるつもりだし」
「月イチ、か」
「変なふうにはとらないでね。貢が会社をやめるって言ったから言いだしたわけじゃないよ。前から考えてた」
「それは、うん」
「わたしたちなら、やれるんじゃないかな」
 綾は貢を見る。貢も綾を見る。
 ダイニングキッチンは狭く、テーブルも小さい。名古屋は遠いが、貢と綾は近い。
「やりたいんだよね?」と貢が言い、
「やりたい」と綾が言う。
「どうしてもやりたいんだよね?」
「どうしてもやりたい」
 一月一日。二人が勤める百貨店唯一の定休日。夫婦の一年が始まる。


<「それ自体が奇跡」の購入はこちら>

▼第1話から読む
○30歳サラリーマンがJリーガーを目指す!?(第1話)
○ある日突然、夫が本気のサッカーを始めたとき、妻は……(第2話)
○入社13年目でやらかしてしまった痛恨のミス(第3話)
○30歳のDF、試合で体が動かない!(第4話)
○試合の翌日、起きられずに会社に遅刻!?(第5話)
●エピソード一覧へ


<書籍概要>

■書名:それ自体が奇跡
■著者:小野寺史宜
■発行日:2018年1月9日(火)
■版型:四六判・272ページ
■価格:電子版 500円(税別・期間限定)、単行本 1,450円(税別)
■発行元:講談社
■kindle版の購入はこちら

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