「スポーツライター平野貴也の『千字一景』」第69回:読売の薫り(森田晃樹=東京Vユース)
ゲキサカ / 2018年4月2日 18時10分
“ホットな”「サッカー人」をクローズアップ。写真1枚と1000字のストーリーで紹介するコラム、「千字一景」
ボールがよく進む。相手がいても、スルスルと抜けていく。進路を阻めばスッと前進を止めて角度を変えて、また進む。相手が複数で寄ったら、スルーパス。3月末に行われた船橋招待U-18サッカー大会を優勝した東京ヴェルディユースで10番を背負ったMF森田晃樹のプレーは、異質だった。得意なプレーは「これという物がないけど、ドリブルとかキープとか。多分、その類」と本人は言う。ボールを扱う選択肢が多く、相手はプレーの予測ができず、狙いの逆を取られていく。
絶賛したのは、テクニックに強いこだわりを持つ静岡学園高校の川口修監督だ。「久々に上手いチームとやった。昔の読売(サッカー)クラブみたい。あの10番なんて、特に。面白い。無駄がない。賢くて、余計なことをしない。スピードがあるタイプじゃないけど、ボールを取られない。(相手に)当たられない」と称賛が止まらなかった。森田は、静岡学園との試合ではFWで先発して、途中から中盤の底でプレー。どちらのポジションでも圧倒的なボール保持力を発揮し、前への運び出しでチームを前進させた。
小学3年生からヴェルディ育ち。ジュニア時代は、サイドMFやセンターバックを務め、ボールを持つタイプではなかったが、ジュニアユース時代にボランチで起用され始めてドリブルの特徴が出るようになったという。名うてのドリブラーとして知られた東京Vユースの永井秀樹監督が「相当、高い才能を持っていると思うので、楽しみ。ドリブルは、自分の感覚にも近いものがある。ああいう選手が日本サッカー界で評価されるようになってほしい。良い意味でヴェルディのDNAを持った選手。ボールコントロールが素晴らしいし、サッカーセンスが面白い」と期待を寄せている選手だ。
U-15、U-17の代表経験を持ち、2月にはU-18Jリーグ選抜でネクストジェネレーションマッチに出場。次なるステップアップを狙う。トップチームの渡辺皓太や藤本寛也の話に強い刺激を受けており、「なるべく早くレベルの高いところに行って、自分より上手い人を見ながら吸収して成長したい」とプロ入りを見据えている。相手との駆け引きに勝つ力は十分。だからこそ「相手はシュートやスルーパスが怖いと思うし、それをもっと見せながらプレーしたい」と話すゴールに直結したプレーの体現が求められる。技術は、ゴールを奪い、勝つことで認められるのがプロの世界だ。読売の薫りが漂う男は、ユースの世界を飛び出す戦いに挑む。
■執筆者紹介:
平野貴也
「1979年生まれ。東京都出身。専修大卒業後、スポーツナビで編集記者。当初は1か月のアルバイト契約だったが、最終的には社員となり計6年半居座った。2008年に独立し、フリーライターとして育成年代のサッカーを中心に取材。ゲキサカでは、2012年から全国自衛隊サッカーのレポートも始めた。「熱い試合」以外は興味なし」
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