「スポーツライター平野貴也の『千字一景』」第72回:監督は18歳(山形大学)
ゲキサカ / 2018年5月29日 6時10分
“ホットな”「サッカー人」をクローズアップ。写真1枚と1000字のストーリーで紹介するコラム、「千字一景」
試合後の記者会見に現れた監督は、18歳だった。天皇杯の1回戦で流経大ドラゴンズ竜ヶ崎に敗れた山形大学の1回生、羽柴寛泰だ。
「今回の試合は、流経大(ドラゴンズ)さんとやらせていただくということで、世間からしたら絶対に山大が負けるだろうという中で、覆してやろうという気持ちで挑んだんですけど、前半は相手の正確なロングフィードで逆サイドに振られて良い形を作られて2点を取られてしまった。後半は(失点を)ゼロに抑えたんですけど、今度はポゼッションで思い通りの守備ができないように(マークを)はがされて、走らされて足を攣る選手も出て来て、難しい試合でした」
しっかりと落ち着いた受け答えが印象的だった。18歳で監督として天皇杯の記者会見に臨むことは、貴重な経験だ。今後にどう生かしたいかと聞くと、こんな答えが返って来た。
「来年、もう1回このステージに来て、自分は、選手としてここに立ちたいです」
山形大のサッカー部は、自主運営だ。現在は、3回生の佐々木廉が主将兼監督だ。監督と選手を二重で登録できないため、1回生の羽柴が監督を務めた。2年前、1回生だった佐々木を監督として登録したのがきっかけで、以降は18歳の監督で天皇杯に臨むチームとなっている。
有望な選手が集うわけではなく、本格的な指導者もいない。対するドラゴンズは、関東大学1部を戦う流経大のセカンドチームだが、高校時代に全国レベルの活躍を見せた選手ばかりで、力の差は明らかだった。公式記録に残されたシュート数は1対23と圧倒的で、山形大は0-2で敗れた。ただ、それでも小林拓人の突破でチャンスを作るなど健闘を見せた。
天皇杯の魅力は、カテゴリーを超えて様々なチームが出場するところだ。山形大は、東北大学リーグの2部に所属。全国大会は遠い存在だ。しかし、地域リーグの結果が必要な学生大会と違い、天皇杯は県大会を優勝すれば全国大会に出られるため「一番大事な大会」(佐々木)だという。
観る者は強いチームの出場を望むものだが、各チームはそれぞれの立場からチャンスを伺っている。自主運営の学生チームである山形大も、勝ち上がればプロと対戦できる、この大会にしかないチャンスを狙って挑み続けている。
佐々木は言った。
「自分が最初で、最年少監督が伝統になったら良いですね。この先、全国で1勝はしたいです」
経験を積み重ねて、いつかジャイアントキリングを――最年少監督チームの挑戦は続く。
■執筆者紹介:
平野貴也
「1979年生まれ。東京都出身。専修大卒業後、スポーツナビで編集記者。当初は1か月のアルバイト契約だったが、最終的には社員となり計6年半居座った。2008年に独立し、フリーライターとして育成年代のサッカーを中心に取材。ゲキサカでは、2012年から全国自衛隊サッカーのレポートも始めた。「熱い試合」以外は興味なし」
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スポーツライター平野貴也の『千字一景』-by-平野貴也
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