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Jクラブはトップ選手を育てるだけではない。FC東京が大切にしてきたもうひとつの「受け皿」

ゲキサカ / 2019年3月1日 10時12分

「周囲の人とのかかわりがあまり得意ではなく、『自分だけに注目してほしい』ということを態度で示す子も多いです。たとえばボールを持たせると『僕のボール。だから捕らないでね』と言って、試合が成立しないんです。そういうときは、たまにボールをとっちゃって『取り返してごらん』というだけで、かかわりができる。そしてゴールが決まればハイタッチ。自然とだんだん仲間が増えて、スクールに来ることが楽しくなるように意識しています」

 鯨井コーチは選手としてのプロ経験はない。大学時代、張り紙を見てコーチとして入ったチームの保護者が、当時のFC東京の普及部長を紹介してくれた。在学中からアシスタントコーチの仕事をはじめ、卒業後はFC東京の計らいもあり、障がいのある子が集まる特別支援級の教員をやりながら、アシスタントコーチを続けることができた。「2足のわらじの経験」が今の指導に生かされている。

「最初はどう接していいのか、という想いはすごくありました。(子どもが)寄りつかないんですよ。でもこちらがぐっと入り込むと、生徒たちも振り向いてくれる。子どもたちはものすごく敏感なんです。『この人、緊張しているな』というコーチの雰囲気を素早く察知してあまり寄りつかない。ですから僕のキーワードは『笑顔』です。笑顔でサッカーをして、笑顔で迎え入れる。教育委員会と連携して普及部コーチが小学校を訪問する『キャラバン隊』では、サッカーが好きな子もいればそうでない子もいます。まず『FC東京から来ました!!』という元気さがないと、いくらレベルの高いサッカーを教えても、生徒の心の中に入っていかないと思っています」
昨年末のフェスタ。鯨井コーチはいつも子どもたちと同じ目線で話す
 住んでいる場所の関係でスクールに定期的に通えない子どもたちのために、中学生以上を対象にスクールとは別に毎月1度、府中市で「あおぞらサッカークリニック」を開校すると、長野県から親子で通ってきた子もいた。学校よりスクールの方が楽しいと言い、スクールが中止になったのに「コーチに会いに行きたい」と言って、会いに来てくれる生徒も出てきた。

「口コミ、口コミの連続で人の縁に恵まれた、いい人生を送らせてもらっています。今はスクールの生徒が20人なら20人、定期的に来てもらえることが一番大事です。サッカーをやっているスクールの子たちの中で将来、ジュニアユース、ユースとあがって、プロの選手になるのもひとつの道ですが、スクールに入っていても将来はパン屋になったり、パイロットになる子もいる。コーチに教わって『すごく楽しかった』『挨拶もできます』。そういう子も育てていける指導者になりたいですね」

 将来性豊かな若い芽を一流プロにするのも難しいが、個性もレベルも違う子どもたちを一同に集め、能力を見極め、楽しませながら目指す方向にうまく導いていくことも、またプロフェッショナルなスキルが必要だ。イベントの自己紹介で「僕のことは『ク・ジ・ラ』と呼んでください」と言って子どもの心のつかむ鯨井コーチは、答えが無数にある大海原を、これからも笑顔で泳ぎ続ける。

(取材・文 林健太郎)
●障がい者サッカー特集ページ

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