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「魂は置いていかない」。W杯出場を決めながら、引退勧告を受けたある日本代表戦士の葛藤と決断(下)

ゲキサカ / 2019年4月11日 11時13分

 そんな上井に引退勧告をした川元監督は、どんな心境だったのだろうか。

「それはもう、むちゃくちゃつらかったですよ。彼は、僕が目指す戦術を体現できる選手。今の日本代表は彼と共にあると思っていますから。でもカズさん(横浜FC・三浦知良)ではないですけど、上井は自分からはやめることができないんじゃないかな、と思ったんです。仮にひざの状態が改善しても、W杯に出られるかどうかわからないのであれば、こちらから区切ってあげることがいいんじゃないかと。彼はすべてをなげうって本気で世界一になるためにやってきた。その思いが強すぎるがゆえに、オーバートレーニングになってけがが悪化してしまった。本音を言えば、僕が監督をしている間はベンチでもいいのでいてほしい。でも彼本人にしてみれば『試合で使えない選手がベンチにいる』ということ自体、考えられない選択なんです。この数か月間、中途半端でしかできない状態は、死ぬギリギリのしんどさより、苦痛だったんじゃないかと思います」
背番号6が上井。この光景がもう一度、見られるか
 引退勧告をした3日後の2月26日。川元監督は自らのブログの中で「上井、本当に今迄ありがとう。お前の魂と共に日本代表は進んでいきます」と感謝の気持ちを記した。

一方の上井は日本代表への未練を断ち切ろうと、帰国した羽田空港で、スーツケースの中から水色の日本代表の練習着を取り出し、主将の東海林直広にそっと渡した。しかし、日本代表のトレーナーの尽力で3月27日、4月3日と広島の病院で検査を受けると、わずかではあるが、一筋の希望の光が差し込んできた。

「軟骨の手術をすると、Jリーガーの方々の例を見ると大体全治3か月ですが、僕の場合は全治半年と言われました。4月に手術できれば11月のW杯から逆算するとギリギリ間に合うかどうか、ですね。(W杯に間に合う)可能性は著しく低いかもしれませんが、ゼロでなければチェレンジしようと気持ちが固まりました。今回、こんなに早く診察を受け、手術できるのもトレーナーの方を含めた周りの人たちのおかげです。そういった方々の思いにも何とか応えたい。(川元監督が記した)魂は日本代表チームに置いていったつもりもないし、自分が選ばれて持っていきたい。またすごい大変な積み重ねの作業になるかもしれませんが、足が取れても今度は絶対に自分に勝つ、という覚悟を持って手術、リハビリに臨みたい」

 手術予定日は12日。骨の移植や軟骨の再生を目的とする繊細で難解な手術が想定されている。しかし10月に練習に復帰できる状態になれば、日本代表のコーチが所属するクラブの練習に参加し、1選手としてアピールする青写真もできあがっている。

「最後の悪あがきをさせてください。(選手として)使い物にならないと判断したら、必ずメンバーから外してください」

 この連載の(上)で紹介したこの台詞を伝えるために、上井は6日、日本代表が合宿を張っていた兵庫県に足を引きづりながら訪れ、他の日本代表選手がいないところで川元監督にこっそり会ったという。

奇跡の代表復帰はなるか。結論が出るころには日本列島は夏が過ぎ、秋を迎えている。花は散り、葉が色づき始めているかもしれない。それでも季節外れの桜を咲かせてみせる。上井は、そう信じている。

(取材・文 林健太郎)
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