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「アンプティサッカーをはじめる!」。19歳のがん患者につながった「遺志」(下)

ゲキサカ / 2019年5月14日 16時55分

 鈴木君がコウ君と出会った頃、コウ君は肺への転移が見つかり、薬が効かなくなっても明るい表情で闘っていた姿を見てきた。ゆえに、その姿は鈴木君の頭の中で無意識に重なってくる。そんなとき、久しぶりにコウ君の家族から連絡をもらい、アンプティサッカーにはじめてトライすることが出来たことが生きる励みになった。ではなぜ、コウ君の父・剣太さんは鈴木君を誘ったのだろうか。剣太さんが明かす。

「一言では言い表せないのですが、行(コウ)は生前、アンプティをやろうと考えていたとき、日本代表になるつもりでいたようです(笑)。行(コウ)がプレーヤーとしてやれていたら、きっと同じ境遇の親友には見に来てほしいだろうな、と感じたので、行(コウ)の思いとして鈴木君を誘いました」
 
 実際、鈴木君はアンプティを初めてプレーしたことで、映像で見ていたとき以上に「アンプティをプレーしたい」という願望は高まった。

「コウ君から誘われていたときも『実際に(アンプティを)見たほうがいいよ』って言われていたんです。実際にやらせてもらって、やっぱり楽しいと思いました。エキシビションマッチの後、東日本リーグのチームの方が分け隔てなくすごい誘ってくれて…。そのこともうれしかったですね」
この日が来ることを信じている
 この4月から義肢装具士養成校に通う鈴木君は毎日6時間の授業を受け、週末や授業の合間のに、抗がん剤の治療を受けに行く。アンプティをはじめたい気持ちはあるが、体力の消耗を考え、今はどのチームにも所属せず、治療に専念している。抗がん剤の治療を卒業できれば、チームを選ぼうと考えている。

「コウ君のことは今でも毎日、考えています。ただ、僕がアンプティをはじめる理由が『彼のために』というのはちょっと違う。あくまでも僕が純粋にやりたいからはじめるんです。コウ君は病院生活も自分と同じぐらい長かったのにずっと前向きで、その姿を思い出すと、まだまだ負けていられないなと。ありがたいことに今、とにかく授業も大変で、昼の弁当も自分で作ったりしているので、忙しくて余計なことを考える時間がない。そのこと自体、いいことなんですけどね」

 そんな鈴木君のことを知った日本代表主将の古城は、こうエールを送る。

「(鈴木君には)まずはご家族を安心させることを第一に考えてもらいたいです。治ったら、それはアンプティをはじめてもらえるのが一番だとは思いますけど、アンプティでなくても何かスポーツをプレーできる体の状態になってほしい。私は短い間でしたが、コウ君やそのご家族とお話させていただく機会に恵まれて、そのことを踏まえると、コウ君の遺志やエネルギーみたいなものが、鈴木君に届いたのかなと思います。サッカーにとどまらず、スポーツの存在は、病気と闘っている人にとってもきっと生きる糧になるのだと感じます。鈴木君が病気を乗り越えたとき暁には、彼や同じ病気を克服した方々にしか伝えられないことを伝えてほしい。そう考えるだけでも楽しみです」

 元号が令和に変わり、新時代を迎えた今年のゴールデンウィークは最大10連休と長かった。鈴木君は他のクラスメートが一斉に里帰りするのを横目に、ひとり東京に残り、抗がん剤治療を受けた。今回から薬が変わったが、今まで感じていた体内の違和感がスッと消え、明らかに好転している手ごたえを感じている。桜はすっかり散り、ツツジの花が咲き誇る日本列島。ちょっぴり遅い“春の風”を感じた鈴木君は26日が20歳の誕生日。これから迎える夏の日差しのように、人生もきっと輝かしくなると信じている。

(取材・文 林健太郎)
●アンプティ/障がい者サッカー特集ページ
●日本障がい者サッカー連盟(JIFF)のページはこちら

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