左腕に巻く腕章に込めた「山田の誇りとプライド」。青森山田DF小沼蒼珠が力強く歩み出した日本一のキャプテンへの道のり
ゲキサカ / 2024年6月4日 19時55分
後半25分。ようやくMF川口遼己(3年)が先制ゴールを奪うと、「1点入った時には『このまま行くぞ』という気持ちはありましたし、みんなの足が止まってきた時に、キャプテンの自分がいかに走れるかがチームにとって大事だということは思っていて、後半に入ったら自分はいつも1つギアを上げられるような感じでいるので、守備でも全体の集中力が上がりましたね」と言い切る小沼を中心に、青森山田の守備陣は一層集中力を高めていく。
「プレミアで自分たちはまだ結果が出ていない中で県大会に入ったので、不安というのもたくさんありましたし、最後に負けたのは正木さんの代だということも聞いていて、県内の連勝記録の話は何回もされていましたし、20年間負けなしというのはプレッシャーにもなったんですけど、やっぱり数々の先輩たちが紡いできた伝統もあったので、今日は勝ててホッとしています」。優勝を手繰り寄せた試合後。大きな声援を送ってくれたスタンドのチームメイトと一緒に獲った記念写真の真ん中で、キャプテンの笑顔がようやく弾けた。
みんなで県24連覇という記録を成し遂げたことはもちろんだが、小沼にはそれと同じぐらい嬉しいことがあったという。「スタメンもベンチもサポートも含めて、1つの目標に向かって全員のベクトルが同じ方向を向けたことは凄く大きなことですね。サポートをする者も、試合に出る者も、それぞれの役割がある中で、1人1人が自分の役割を理解してこの大会に向かったというのは、試合の内容以上に大きなものがあるなと思っています」。
「自分も去年の夏はサポートの役だったので、そういう選手の気持ちもわかりますし、そこで割り切ってやることは本当に難しいことなんですけど、試合に出られない3年生が積極的に声を掛けてくれたので、『ああ、みんなちょっとずつ成長しているな』と試合前に思いましたし、チームが1つになれたことが、この大会を通して一番良かったことかなと思います」。間違いなくチームの輪が大きく、強固になりつつある手応えも掴んでいる。
今年のチームが掲げている“三冠”をもぎ取るための、スタートラインには立った。去年のチームも勝ち獲れなかった夏の日本一へ。小沼の言葉が力強く響く。「去年のインターハイ、プレミアファイナル、選手権と自分は全部出ているんですけど、やっぱり去年のインターハイは、プレミアファイナルや選手権の過ごし方と比べると隙があったことを今は感じているので、今まで以上に山田のやるべきことを積み上げて、まずは一冠を獲りたいなと思っています」。
その明るいキャラクターだけに目を向けては、この人の本質を見誤る。ピッチ上を制圧する豪胆さと、チームメイトを等しく思いやる繊細さを合わせ持った、2024年の青森山田を束ねるキャプテン。左腕に巻く腕章に『山田の誇りとプライド』を込めた小沼蒼珠のリーダーシップが、このグループをしなやかにまとめ始めている。
(取材・文 土屋雅史)
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