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これまでの人生を振り返る…思い出の「棚おろし」のお手伝い【老親・家族 在宅での看取り方】

日刊ゲンダイ ヘルスケア / 2024年6月19日 9時26分

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患者さんから貴重なお話を伺うことも

【老親・家族 在宅での看取り方】#98

 訪問診療をする中で、私たちにとって人生の先輩ともいえる患者さんやご家族の方々から貴重なお話を伺うことがあります。

 90代や80代後半の方には、戦時中の記憶をはっきりとお持ちな方が少なくありません。診察の合間に当時の暮らしぶりやご苦労をいろいろと語ってくださる方もいて、大変貴重な経験になっています。その方は慢性心不全や糖尿病などを患う御年93歳になる女性の患者さんでした。

 生まれは東京で、現在は都心部の大通り沿いに所有するお父さまから受け継いだ土地にテナントビルを建て、貸し出しながら息子夫婦と暮らしていらっしゃる方です。そんな土地への愛着から訪問診療を選ばれたとのこと。

 この方の患う心不全とは、全身に血液を送る心臓の働きが弱くなって血液の循環がうまく行えなくなった状態のことです。その原因も心筋梗塞・弁膜症・高血圧症・慢性呼吸不全などさまざまです。そして、この心不全が急激に悪くなっていくのが急性心不全であり、それに対してゆっくりと心臓の働きが弱っていく状態を慢性心不全と呼んでいます。

 慢性の場合、急激に状態を悪化させないための薬(利尿薬・血管拡張薬など)を中心とした保存的治療が主になります。主な症状は労作時の息切れ・体重増加・尿量低下・むくみなどがあり、病状が進行すると、安静にしていても息が切れるようになります。ですがこの方の場合は、よく息子夫婦と百貨店などへお出かけするなど、健脚で意思疎通もはっきりされておられます。

 ある日、こんなお話をしてくださいました。

  ◇  ◇  ◇

 私らが女学校に入った頃、東京にも空襲がくるようになって神田とかは焼け野原だったの。そして私たちはきょうだいで疎開した。山梨の〇〇ってご存じ? そこにも親戚が広い土地を持っていて、幸いなことにおいしいものがたくさんできたのね。そこにしばらくいて東京に戻ってきたのは終戦してから。東京に戻ってきてからびっくりしたわ。配給制じゃない! 食料が全然ないのよ。

 そのあと父が残してくれた東京の土地に建物建ててね、当時は日照権の問題とかあってあまり高い建物を建てられなかったけど、貸し出したらまあまあ食うには困らなかったわ。そのうちのひとつを材木屋さんに貸してたの。戦後建物が壊れているから木材の需要がすごいじゃないの! そこがずいぶん忙しそうだったのを覚えているわ。

 疎開先の土地は手入れできないから売ってしまったのね。その時の税金ったらすごかったのよ。

  ◇  ◇  ◇

 患者さんから赤裸々にさまざまなお話を伺います。そしてそのお話はその方の人生を振り返ったものが大半なのですが、そんな時、私たちはその人生を振り返る、思い出の棚おろしのお手伝いをさせてもらっていると思うのです。こんな他では得られない経験ができることを、在宅医療に関わる者の役得とすら感じています。

(下山祐人/あけぼの診療所院長)

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