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退職後のがん患者にとって「幸せな食事」とは何か…療養食開発者が味以上にこだわったこと

日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年5月6日 9時6分

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大学病院の管理栄養士から食品商社に転職(C)日刊ゲンダイ

【コレ、私が考えました】

 大久保あさ美さん
 (西本ウィズメタックホールディングス)=後編

  ◇  ◇  ◇

 主にがんサバイバーのための療養食「食卓の名医」を開発した大久保あさ美さん。東京大学医学部付属病院で6年間、管理栄養士として勤務した経験を持つ。

「病棟の患者さんの栄養管理、食事の調整をしたり、がん治療中や手術後の方の栄養相談を行ったりしていました。でも、退院すると患者さんの食生活が見えなくなる。うまく食事が取れずに体重が5キロも減ってしまった、なんていう方もいらっしゃいました」

 入院中は医師や看護師、管理栄養士らがチームで患者を支えられるが、いざ退院するとそうはいかない。

「特に胃がんで胃を切除した患者さんの多くは60代以上の男性。奥さまが料理を作るケースが多いのですが、日中働いていると面談に同席してもらうのは難しい。限られた時間の栄養指導だけで、自宅での食事作りをイメージしてもらうのは至難の業でした」

 退院した後も、体調を整えるための食事を安心して食べられるような環境をつくりたい。そんな思いを胸に、6年間勤めた病院を辞め、食品の卸売商社である西本ウィズメタックホールディングスへの転職を決めた。

「ちょうど当社がヘルスケア領域に参入するタイミングと重なったんです。商品開発は初めてでしたが、病院業界に詳しいMR(医療情報担当者)、マーケティング担当者らと一緒に日々あれこれ模索しながら作り上げていきました」

 大久保さんにとって、がんは他人事ではない。

「祖父が胃がんで亡くなり、父も母もがんに罹患しました。幸い父母は元気に過ごしていますが、がんは本当に身近な病気だと感じます。そういう身近な病気であるということを、患者さまはもちろんその周りの家族、友人、仕事の同僚がもっともっと理解して、がんに罹患した方を受け入れやすく、前向きに考えられる世の中にするために、私は食の側面から役に立とうと、開発に打ち込みました」

見た目や風味はそのままに、舌でつぶせる柔らかさ

 味と同じくらい気を使ったのは見た目だ。食欲を刺激するホルモンの多くは胃から分泌されるため、胃を全摘した患者は食欲が湧きにくくなるが、「そんな時、料理の見た目でおいしそうと感じることが、食欲をかき立てる大きな要素になります。見た目が食欲を刺激し、なおかつ消化にもやさしい。食卓の名医はそんな食事をめざしました」。

 だからこそ、見た目や風味をそのまま残しながら舌で簡単につぶせるほど柔らかくできる「凍結含浸法」は欠かせない技術。広島県立総合技術研究所食品工業技術センターが2002年に開発したこの技術との出合いが、商品を生み出す推進力になった。

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