スポーツ報知の「記事ドロボー事件」に思うこと…スポーツ報道に蔓延る「疑似盗用」もしかり
日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年6月22日 9時26分
昨20日、岡本和真(右端)の打撃連取を見つめる長嶋茂雄終身名誉監督(C)共同通信社
【スポーツ時々放談】
報知新聞に盗用記事があったという。甲子園球場100周年を巡る連載記事が他紙からの無断転用と判断された。
私も世話になった同紙は、かつてスポーツ紙の王者だった。入社時の発行部数は150万部に達し、他の5紙を合わせてもその半分だと聞いた。私が入社して急速に下降したのは、私のせいではなく、その年に長嶋茂雄が引退したからだ。
スポーツ紙で最も古いのは日刊スポーツで、報知はスポニチに次いで3番目の1949年創刊だが、前身は一般紙。箱根駅伝の当初の主催社として知られる。
戦後、読売新聞に吸収され一般紙からスポーツ紙へと路線変更したあたりに“王者”の基礎はあった。スポーツ紙と聞いて多くの記者が辞め、それでも残った中に書き手がいたという。単に勝敗を報じニュースを流すだけでなく、読ませる文章を書くストーリーテラーがスポーツ界に入り込んだのだ。
スポーツ紙への転身は、正力松太郎が構想した巨人軍の“一国フランチャイズ化”に沿うもので、系列の日本テレビによるテレビ中継と連結していた。この構想が58年の長嶋入団、王貞治とのONと相まってのV9時代に劇的に前進。報知新聞は巨人戦だけで何ページも作ることになり、今では当たり前になった、球場外のエピソードを絡ませたサイド原稿を考案。入社当時の編集局長が「あの人が考えたんだ」と、それは今中治という大柄で寡黙な人だった。
今回の盗用は生え抜きの記者ではなかったそうだ。重い処分は当然として、疑問も残る。今回の盗用対象はフィクションではなくノンフィクションだ。たとえば、水原一平を巡る一連の記事はほぼすべて米国の報道をなぞった、いわゆるコタツ記事。引用元さえ明確にすればいいとばかり、取材経験もないネット世代の脱力が報道現場を混乱させ、現場に行っても取材しない“出前コタツ”もはびこっている。
欧米のスポーツ紙はイタリアのガゼッタ、フランスのレキップくらいだ。日本には全国スポーツ紙だけで6紙あり、独自の“文化”とすら言える。日本のスポーツが新聞社と軌を一に発展してきたレガシー、もしくは恥部──ニューヨーク・タイムズは昨年、スポーツ局を廃して結果報道は外部に任せ、時事ネタは社会部でフォローしている。文章の盗用ほど情けない話はない。日本のスポーツ報道も、ネットに引きずられてズルズル“疑似盗用”を続けていても仕方ないと思うのだが……。
(武田薫/スポーツライター)
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