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佐野元春さんに以前から訊きたかったことを問うてみた(松尾潔)

日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年7月19日 9時26分

 試合後の細川のガッツポーズにすっかり気持ちを鼓舞されたぼくは、意気揚々とスマホで輪島功一をググった。現役最後の試合となったあの日、彼は何歳だったのだろう。輪島の名がヒットして、当時の年齢が判明する。34歳。えっ。そんなに若かったの……しばし言葉を失う。それを〈年老いた悲しみ〉と言いきった谷村新司は当時28歳。早熟の才。やはりエンターテインメントをよくわかっていたのだなぁ。この10月で谷村が逝ってもう1年、ぼくの父が逝ってはや2年が経つ。

◆土曜(13日) 3連休初日。佐野元春&ザ・コヨーテバンドを観るために、初めてZepp Hanedaに足をはこんだ。中学・高校時代に親しみ、以来ずっと作品に触れてはきたけれど、ライブは昨年初めて体験した佐野元春。それがあまりに鮮烈な印象を残したので、今年のツアーも観ることにしたのだ。さてライブは一見シンプルながら途轍もなく豊かな時間だった。空っぽの脳がぎっしり満たされていくような文化的充足感と、日々のストレスで強ばったカラダがほぐれていくような解放感の双方を味わった。

 終演後に佐野さんと話をする機会を得たので、ぼくは以前から訊きたかったことを問うてみた。いま、アルバム1枚の長さはどれくらいがふさわしいと考えますか。ライブを終えたばかりで訊くことでもないかとも思ったが、ぼくの問いかけに「うん、うん」と相槌を打っていた佐野さんは、質問が終わるやすぐに口を開いた。「1曲が3分から3分20秒くらい。曲数は10曲程度、いやもう少しあってもいいかな」。即答ぶりが気持ちよすぎる。これだけでも十分に納得できる内容だが、ぼくはさらに言葉を重ねた。いまは配信の時代、アルバムの尺をもっと長くすることも容易ですよね、と。「うん。そうだね、そんな特性を活かした作りのアルバムだって可能だと思う。

 でも僕は70年代にレコードの文化で育ってきたから、そのころのアルバムの長さがしっくり来るし、カラダになじんでもいるんだよね」。現状を嘆くことも未来を否定することもない。ただ自分の経験に裏打ちされたことを全うしたいというスタンス。これには大いに刺激を受けた。自分よりひと回り上の68歳。こんな先輩がいると思えば、歳を重ねることも楽しく思えるではないか。

◆日曜(14日) 渋谷NHKホールで鈴木雅之のライブ。マーチンさんも9月で68歳。彼が50歳のとき、39歳のぼくはアルバム『Champagne Royale』をプロデュースした。「年下のプロデューサーにアルバム任せるの初めてなんだよ。よろしくな、松尾」と言われて身震いしたのが昨日のことのよう。いまのマーチンさんはあのころよりイイ声が出ている、という不思議。いや、不思議じゃなくて精進の賜物なのだろう。

 歌うたいとしてのストイックさ、セクシーさ、コント風MCも厭わぬエンターテイナーとしてのサービス精神。それらのミックスの度合いとして、これが黄金比かも。圧巻のステージだった。終演後、マーチンさん本人を囲むようにブラザー・コーンさん、久宝留理子さんとパチリ。この写真も懐かしく思う日がじきに来るんだろうなあ。うん。そうだね、きっと来るよ。あ、昨日の佐野さんの口調がうつっちゃった。

(松尾潔/音楽プロデューサー)

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