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元開業医の80代患者への訪問診療を通して学んでいること【老親・家族 在宅での看取り方】

日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年8月7日 9時26分

元開業医の80代患者への訪問診療を通して学んでいること【老親・家族 在宅での看取り方】

写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

【老親・家族 在宅での看取り方】#105

 先日から、フレイル状態の80代前半、元開業医の患者さんへの訪問診療を開始しています。

 この方は町の診療所として40年の長きにわたって地域に寄り添い、外来をしながら時には訪問診療にも出られていたという、地域のホームドクターともいえる方でした。

 現在は引退され、息子さんが医院長先生として1階部分の診療所を引き継ぎ、2階はテナントとして貸し出し。3階部分を住居スペースとし、息子さん家族との3世帯でお住まいです。

 ご自宅に訪問するたびに、医師時代のことや当時の貴重なお話をしてくださり、いつも大変興味深くうかがっています。

 現在当院では電子カルテを導入しています。訪問診療時に共に仕事をする訪問看護師へ指示書を発行し、点滴の管理や衛生面の処置、緊急時の対応などをお願いするのに出す指示書も、電子カルテに記入された患者さんの様子をコピー・アンド・ペーストして発行しています。

 ですが、その患者さんの診療所ではかつて、各患者さんと向き合った記憶から一枚一枚万年筆で書いた指示書を発行されていたとのこと。それにより患者さんの不安や疑問を感じ取り、時に信頼されていることを実感できたとおっしゃいます。

 患者さんに寄り添うことが、在宅医療を行う上では必要であると、これまでにもお伝えしてきましたが、この患者さんの思いを実感できるということは、時代が移ろうとも医療現場において大切な要素であることに変わりはありません。

 現在のご自宅のある建物にはエレベーターはなく、階段は外付けで3階から1階までまっすぐにのびています。体力自慢の息子さんが、患者さんをおぶって3階から1階に下ろしているということです。

「私をおぶって上り下りするくらいなら、これまで働いた分の貯金があるから車いすを運ぶ機械を取り付けてもいい」と、そっと、そんな息子さんを気遣うお話もされます。

「私はぎりぎりまで働き続けたが、息子はそこまで頑張らなくてもいいと思っています」

 時に、息子さんであっても、同じ医師だからこそ打ち明けられない、ご自身の経験からくる見識と、家族を思う気持ちが交錯した複雑な思いを吐露されることも。

「家族と患者さん」「病気と日々の自由な生活」「経済的な事情や家族の協力」。それぞれの理想を融和させ最適解を見つけていく、そんな人生コーディネーター的な役割を担うことも、在宅医療には求められていると、訪れるさまざまな患者さんに接して実感する日々です。

 患者さんのご自宅ではいつも、玄関に飾られた「生涯現役」と毛筆で大書された墨文字のある額縁が、訪れる我々を迎えてくれます。私はそれを目にするたびに、背筋が伸びるのでした。

(下山祐人/あけぼの診療所院長)

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