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上機嫌で自画自賛のIOCバッハ会長が忘れてはいけない 国家と政治を超えた選手の姿(春日良一)

日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年8月9日 9時26分

上機嫌で自画自賛のIOCバッハ会長が忘れてはいけない 国家と政治を超えた選手の姿(春日良一)

卓球混合ダブルス表彰式で、一緒に自撮りする韓国、北朝鮮、中国のメダリスト(C)ロイター

【7.26パリ大会開幕 徹底!実践五輪批判】

 現地8月3日にパリオリンピック前半を総括するプレスブリーフィングに登場した、国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長は上機嫌だった。彼はセンセーショナルをもじって「セーヌセーショナル」とパリ五輪を表現するほどだった。

 水質問題を抱えるセーヌ川に飛び込んだトライアスロン選手への自虐的なエールにも思えたが、セーヌ川を軸として繰り広げられている五輪は、IOCのソーシャルメディアで85億ビューを記録し、開会式はフランス国内で83.3%、日本ではここまで82.7%が何らかの形で競技を視聴しているというデータを発表した。この数字は確かにセンセーショナルにイベントとしての成功を裏付けている。

 しかし、それだけではただの商業主義と揶揄されるだけかもしれない。それ以上に重要なのは多くの競技において接戦が展開されていることである。実際、これまでメダルに縁のない国からメダリストが誕生している。

 陸上競技でドミニカ(女子三段跳びのテア・ラフォンド・ガドソン)とセントルシア(女子100メートルのジュリアン・アルフレッド)が初めてメダルを獲得した。しかも金メダルだ。体操としては、ナリマン・クルバノフがカザフスタンに初のメダルをもたらし、フィリピンのカルロス・ユーロは、ゆか運動で金メダルを獲得した。IOCが推進してきたソリダリティー基金による発展途上国への選手育成支援の実りが証明されたと言える。

 しかし、私にはバッハが自画自賛の嵐の中で見失っているものがあるように思えた。こんなシーンが蘇った。

 苦戦が続いた中国体操のエース張博恒が日本のエース橋本大輝の苦戦ぶりに演技の合間に駆け寄ってきて労をねぎらい、互いの健闘を称え合ったシーン。卓球女子の世界王者・中国の孫穎莎が個人準決勝で日本の早田ひなに4-0でストレート勝ちした直後に早田に近寄り「大丈夫?」とその左手を気遣ったシーン。そして、卓球混合ダブルスの表彰台、銅メダルの韓国イム・ジョンフンとシン・ユビン、銀メダルの北朝鮮リ・ジョンシクとキム・グムヨンが金メダリスト王楚欽と孫穎莎とともにセルフィーショットしたシーン。

 オリンピック休戦を訴えるIOCが見失ってはいけないものがある。オリンピックの囲いの外では、武器による紛争解決を止めない国々がいるのだ。その中でオリンピックが外交のための中立的な媒体を提供し、紛争下にある国々が共通の基盤を見つけることができる場をつくることが肝心だ。

 孫穎莎は試合後に「彼女(早田)は腕にケガをしていた。今日は厳しい時間を過ごした……」と語った。それは自らの勝利を求めながら相手を思う姿だ。

 パリ五輪を締めくくるプレスブリーフィングではバッハに、選手たちが戦いの中で示す国家と政治を超える姿を伝え、紛争を止めようとしない世界の政治指導者の濁った懐に、オリンピズムの勇気を持って飛び込んでほしい。それが本当の「セーヌセーショナル」だろう。

(春日良一/五輪アナリスト)

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