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クリストファー・ノーランと野田秀樹 ふたりは鳴き声を異にする〈炭鉱のカナリア〉どうしなのかもしれない(松尾潔)

日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年8月16日 9時26分

■舞台や映画を観るとき、可能ならば事前にその内容を極力知りたくない

 そんなモヤモヤをしばし忘れようと、その夜は親しく付き合っている俳優の李そじんさんが出演するNODA・MAP『正三角関係』を、池袋の東京芸術劇場まで妻と観に行った。

 ぼくは舞台や映画を観るとき、可能ならば事前にその内容を極力知りたくない。それどころか、知らずに当日を迎えるための努力さえしている。今回も作・演出が野田秀樹であることはもちろん承知とはいえ、ほかに得ていた事前情報は「松本潤、永山瑛太、長澤まさみという人気者3人が主演」程度。上演回も「妻とスケジュールが合いそうなのは金曜の夜かな」くらいのノリで選んだに過ぎない。

 先述の3名がカラマツ(唐松)という姓の3兄弟を演じていること、設定が第二次世界大戦終盤の長崎であることは、実際に観てはじめて知った。カラマツ家? カラマツ族? カラマツゾク? なるほどこれはドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』の本歌取りなのか。いかにも野田秀樹だなあと遅い気づきを得て、物語世界におもむろに入っていく。

 ぼくの学生時代は野田率いる劇団夢の遊眠社が頂点を極めていたころ。流行りに飛びついて何本か観た後は縁遠い日々を過ごしてきたので、劇場でNODA・MAPを鑑賞するのは今回が初めて。あ、その間に野田さんのお連れ合いの藤田陽子さんと仕事でご一緒したことはあったけど。

■自分はいま奇跡的なタイミングでこの舞台を観ているのでは?

 ぼくにとっては久しぶりの野田ワールド。遠い昔に衝撃を受けた膨大な台詞量は健在、いやパワーアップしていることに驚く。兄弟の父を演じる竹中直人に至ってはラップしていたからなあ。けっして最先端のカッコいいラップではなかったけれど、こちらもそれを気にする年齢ではなくなっているし。なにより「迂回の愉しさ」というべき饒舌さに身をまかせる時間が心地よく、視聴覚があたえる酩酊気分を大いに味わう。

 ストーリーが展開していくうちに、ん? 長崎? もしかして自分はいま奇跡的なタイミングでこの舞台を観ているのでは? と気づいて鳥肌が立った。

 そう、『正三角関係』は長崎に原爆が投下された日、まさに1945年8月9日に向かっていく。野田秀樹は『カラマーゾフの兄弟』に長崎原爆投下を重ねてみせたのだ(長崎は彼の出生地でもある)。いかにも彼流儀の重ね技とはいえ、さすがになんの予備知識も心構えもなく8月9日に観ると震えたなぁ。先週の本連載で記した通り、一週間前に広島の平和記念資料館を訪ねていたという事情もぼくにはあった。

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