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防衛費増額の根拠「台湾有事」は雲散霧消している(文谷数重/元3等海佐・軍事研究家)

日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年9月18日 9時26分

防衛費増額の根拠「台湾有事」は雲散霧消している(文谷数重/元3等海佐・軍事研究家)

台湾は中国との安定を優先(蔡英文前総統と頼清徳新総統=右)/(C)共同通信社

【防衛予算8.5兆円 概算要求は本当に必要か】(上)

 防衛費増額は妥当なのだろうか。防衛省の概算要求は、ついに8兆5389億円に達した。第2次安倍政権以前と比べると2倍近くに膨らんだ形だ。

 増額の理由は台湾有事である。中国による台湾の攻略は必至である。その際には日本の先島諸島も危険になる。だから、防衛費を増額して対応する。自衛隊を強化し、南西防衛を充実させ、敵国攻撃能力で中国を抑止する--という趣旨であった。

 しかし、その台湾有事は雲散霧消している。現状は危機からは程遠い。

 なによりも最大原因だった蔡英文総統は退陣してしまった。日本では好評価だが、実態は偏差値が高い安倍晋三である。その蔡が自らの政治利益のために強硬路線をとって発生したのが、海峡危機である。

 新指導者の頼清徳には強硬路線を続ける力はない。当初は強気であったが、それで支持率が急落した。不人気の徴兵再開や所得格差の問題もある。その解決のためには中国との緊張は高められない。

 台湾の議会も危機回避を優先する。第1党は野党の国民党である。中国との安定や「『一つの中国』の堅持」を最優先している。

 日本の防衛費増額は、根拠を失ったのである。

 だが、岸田政権は増額を続けようとしている。失われた目的のために総額43兆円、うち来年度分8.5兆円の支出を許そうとしている。

 内容にも疑問が残る。台湾有事対策としても首をかしげる施策は多い。

 肝いりの敵国攻撃能力には中国抑止の効果はない。まず、中国が恐れるほどの威力は期待できない。いざ台湾独立の事態となれば中国は一切の躊躇を排して攻略を始めるだろう。その時に日米が巡航ミサイル攻撃をしても無視するのではないか。戦う相手を増やすより台湾攻略を最優先するはずだ。

 それでいて日中関係を無駄に悪化させる内容も含んでいる。

 地上発射型の先島配置は愚策でしかない。自民党政権は中国に近い石垣島への巡航ミサイル配備を狙っている。これは中国への悪意の表明にしかならない。仮想敵国を無駄に刺激するだけである。巡航ミサイルは平時に配備するものではない。

 防衛力強化により安全保障を悪化させる矛盾である。岸田政権は防衛費増額を成果に残したいのだろう。ただ、内容は頓珍漢でしかない。

(文谷数重/元3等海佐・軍事研究家)

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