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なぜ「失敗」は繰り返されるのか…青年劇場「失敗の研究~ノモンハン1939~」は骨太の舞台

日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年9月19日 9時26分

なぜ「失敗」は繰り返されるのか…青年劇場「失敗の研究~ノモンハン1939~」は骨太の舞台

(撮影)宿谷誠

【演劇えんま帳】

 日米開戦前夜の1940年に各省庁、軍・日銀のエリートで設立された「総力戦研究所」が「日本必敗」をシミュレーションしたにもかかわらず、その研究成果は握り潰され、日本は無謀な戦争へと突き進んだ。劇作家・古川健の名作「帰還不能点」だが、本作も旧日本軍による無謀・無策な作戦によって戦闘員の半数が戦死した「ノモンハン事件」をモチーフに「戦争の不条理」を描く骨太の舞台となった。

 1970年。ベトナム反戦と学生運動が吹き荒れた時代。

 総合雑誌に勤務する沢田利枝(岡本有紀)は、経理から抜擢され、初の女性編集者として張り切っていた。彼女が手がける最初の企画は1939年に起きたソ連との国境紛争「ノモンハン事件」。日本が初めて戦車と戦闘機による近代戦を経験したもので、日本軍はなすすべなく壊走した。「無謀な戦争、とりわけベトナム戦争とも通じるのではないか」という歴史小説の大家・馬場(吉村直)からの持ち込み企画だった。

 先輩の後藤(矢野貴大)の協力で沢田は熱心に取材する。ノモンハンの生き残りの一兵卒・清水(島本真治)、全滅を避けるため撤退命令を出したことで関東軍参謀から自決勧告された片岡中佐の妻・千恵子(名川伸子)、元陸軍士官・遠藤(板倉哲)、元関東軍参謀・松岡(大木章)……。

 彼らの証言から、沢田は事件の背景に、東京・三宅坂の参謀本部と満州の関東軍、2つをつなぐ陸軍という組織の頂点に立つエリート集団が共有する特権意識と専横体質を感じ取る。そのことで、馬場は大義なき戦争を描くことに疑問を持ち、小説化を断念。沢田らは編集部に無断で取材を進めるのだが……。

 2時間50分という長丁場だが、一瞬の緩みもない舞台。それを裏打ちするのが役者たちの説得力ある演技とセリフ術だ。とりわけ、沢田(作家の澤地久枝がモデルか)を演じた岡本の存在感が舞台を力強くリードした。

 事件から85年、日本は再び軍拡に血道をあげ、新たな戦前の様相を呈している。だが、ノモンハンの作戦指揮の誤りはその後、ガダルカナル島で繰り返され、広島・長崎の原爆投下を招いた。東電福島原発事故という大惨事があったにもかかわらず、いまだに原発に固執するのも誤りを認めようとしないこの国の宿痾(しゅくあ)だ。

「ノモンハンは陸軍だけの失敗ではない。軍の専横を恐れた政治家、売らんがために戦争をあおった新聞社、それに乗っかった国民の熱狂があったからだ」と、部下を死なせたことで苦悩し続けた吉田中隊長(杉本光弘)の言葉が重くのしかかる。「帰還不能点」と同じく、「過去の失敗から学ぶことを諦めたら過ちを繰り返す」という作者・古川の問題提起を当代随一の演出家・鵜山仁が見事に血肉化した。

 23日まで紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA。

 ★★★★★

(山田勝仁/演劇ジャーナリスト)

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