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長寿研究のいまを知る…「フリーラジカル」や「遺伝子変化」が老化の決定的原因ではない

日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年9月19日 9時26分

長寿研究のいまを知る…「フリーラジカル」や「遺伝子変化」が老化の決定的原因ではない

1996年に誕生したクローン羊のドリー(C)ロイター=共同

 21世紀後半になると、老化の原因について新たな考え方や科学的知見が相次いで報告された。その代表的な説のひとつが1956年に発表された「フリーラジカル説」である。米国医学者のデナム・ハーマン博士が唱えた説で、私たちが呼吸によって体内に取り込んだ酸素の一部が通常より活性化された活性酸素(ROS)に変換される。それが人体の細胞成分やその集合体である臓器を錆びつかせ、さらにはタンパク質の製造の設計図が描かれているDNAにもダメージを与えることで、最終的に体全体を老化させていくとの理論だ。

 体に取り込む酸素の90%以上は、細胞内小器官のミトコンドリアにおいてATPと呼ばれるエネルギーをつくり出す際に利用される。そのプロセスでROSが排出され、ミトコンドリアに悪影響を及ぼす。これによって劣化したミトコンドリアは、さらに大量のROSを排出するようになる。

 そのためハーマン博士らは、その後「ミトコンドリア老化説」を唱えた。ハーバード大学医学部&ソルボンヌ大学医学部客員教授の根来秀行医師が言う。

「いまでもフリーラジカル説を基にした抗酸化食品などが人気ですが、現在、長寿研究者の間ではこの説だけで老化が説明できるとは考えられてはいません。フリーラジカルは遺伝子変異を引き起こすし、ミトコンドリアのDNA損傷が老化の特徴であるのはたしかです。だからといって、老化の決定的原因というものではありません。いくらフリーラジカルでDNAを傷つけても人工的に死に至るまでの老化をつくり出すことはできないし、ミトコンドリアの修復も行われていることがわかったからです。これは多くの研究で明らかにされています」

■クローン動物が証明?

 それはまた、遺伝子変異だけが老化の決定的原因でないことの証左でもある。クローン羊や牛などの寿命がそれを物語っている。

 生物の発生には、メスとオスが関与する有性生殖と、関与しない無性生殖がある。クローン動物とは、遺伝的に同一の性質を持つ動物集団のことを指し、体細胞クローン動物とは無性生殖により生まれた動物のことをいう。

「クローン動物をつくる技術のひとつに、体細胞の核を生殖細胞の中に入れる方法があります。体細胞とは体を構成する細胞のことで、皮膚や骨や臓器など、ある特定の分化した細胞や、さらに異なった細胞に分化する能力を持った幹細胞をいいます。生殖細胞とは精子や卵子のことで、親の遺伝情報を子供に伝える役割があります。体細胞クローン動物はドナーから採取した皮膚や筋肉の体細胞から取り出した遺伝子を含む核を、核を抜いた未受精卵に移植。電気的刺激等により融合し、発生した胚をメスの子宮に移植して受胎させ、クローン個体を出産させるのです」(根来医師)

 体細胞クローンでは成体の体細胞を使用する。そのため、何らかの遺伝子変異が蓄積している可能性が高い。仮に遺伝子変異が老化の原因であるならば、体細胞クローン技術でつくられたクローン牛は、通常の牛よりも遺伝子変異が多いのだから早く老化して短命になるはずだ。ところが実際はそうではないという。


「以前、世界で初めてつくられたクローン羊のドリーは、平均寿命の半分以下で、進行性の肺疾患で死にました。そのため、クローン動物は通常よりも寿命が短いと思い込んでいる人が多いようですが、実際は違います。その後の調べでドリーの臓器は老化が進んでいたわけではありませんでした。また、現在存在するクローン牛や羊などは通常のものと同じ寿命を維持しています。つまり、遺伝子変異だけが老化の決定的理由だとは考えにくいのです」(根来医師)

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