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真田広之『SHOGUN 将軍』はこう見るべし! エミー賞18冠の要因、楽しむためのポイント(北島純/映画評論家)

日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年9月28日 9時26分

真田広之『SHOGUN 将軍』はこう見るべし! エミー賞18冠の要因、楽しむためのポイント(北島純/映画評論家)

真田広之(C)ロイター

 今年の米プライムタイム・エミー賞で史上最多となる18部門を独占した連続ドラマ「SHOGUN 将軍」。世界でいま最も注目が集まっているドラマだ。なぜここまで高い評価を得たのか。「SHOGUN 将軍」を楽しむためのポイントとあわせて、映画評論家の北島純教授(社会構想大学院大学)が解説する。

 まず何よりも「SHOGUN 将軍」にはドラマとしての圧倒的な面白さがある。それを支えているのは、優れた脚本と俳優陣の演技だ。脚本を手掛けたジャスティン・マークスとレイチェル・コンドウ夫妻は、戦国時代の日本に漂着したイギリス人航海士の数奇な運命が語られるというジェームズ・クラベルの原作小説「将軍」(1975年)の基本線を維持しながらも、物語を「異文化間のコミュニケーション」を影の主題とする壮大なダイナスティードラマ(権力争奪譚)に新しく作りかえた。

 権力を巡る争いを描くドラマといえば、「ゲーム・オブ・スローンズ」を筆頭に多々あるが、「SHOGUN 将軍」は、16世紀のカトリックとプロテスタントの戦いやポルトガル貿易の利権など、これまで日本の時代劇ではあまり深掘りされてこなかった視点を取り込んだ上で、日本文化を全く知らない「異国人」と彼を助ける「通詞」(通訳)の間の対話劇を通じて、個人の損得を超えたところにある「宿命」「忠義」、「イエ」(藩)といった当時の日本的価値を分かりやすく伝え、米国人視聴者の興味を駆り立てることに成功している。

 原作小説「将軍」やそのドラマ化(1980年)は東西分断を前提とした旧冷戦下に出版・公開されたものだったが、現代は「グローバル化」を前提とした上で徐々に「分断」が進みつつある時代だ。異文化間のコミュニケーションを巡る描写は繊細さを要求されるようになっている。特にコロナ禍以降は世界中から日本に観光客(インバウンド)が押し寄せ、高層ビルと寺社仏閣が共存する風景に驚嘆し、礼節を重んじる日本文化が称賛を浴びている(円安もあるが)。この作品は、「サムライ」「ニンジャ」「ハラキリ」といった強調描写が残るものの、全体としては細心の注意をもって日本人蔑視、東洋趣味(オリエンタリズム)のにおいが払拭された上で、日本が「再発見」されるような鑑賞体験を提供している。「異なる文化がいかに交流できるのか」という今の時代に見合った問題関心を脚本に取り込んだことが成功した要因だろう。

 主人公の吉井虎永を演じた真田広之(主演男優賞)の抑制が利いた演技と美しい所作も素晴らしい。耐え難いような重荷を背負う通詞・戸田鞠子役のアンナ・サワイ(主演女優賞)や抜け目のない伊豆領主・樫木藪重役の浅野忠信らの演技も冴え渡っているが、特筆すべきは太閤側室の「落葉の方」を演じた二階堂ふみの演技だ。その存在感、目線の動き、連歌を詠む声は権力の存亡を懸けた人間群像劇に比類なき深みを与えている。美術セットは豪華絢爛だが全体の描写はダークな色調で、武家社会の峻厳、死と隣り合わせの戦国時代の日常がよく表現されている。派手な合戦シーンもなく、「ゲーム・オブ・スローンズ」の対極にある重厚な歴史ドラマだ。

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