「TOKIO」はイントロの25秒で80年代をグッと引き寄せた【シングル「TOKIO」1980年1月1日発売②】
日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年10月4日 9時26分
パンクな響きで迫ってくる(提供写真)
【沢田研二の音楽1980-1985】#3
シングル「TOKIO」1980年1月1日発売②
◇ ◇ ◇
オリコン最高8位。この曲が意外に低いセールス記録以上に記憶に残るのは、巨大パラシュートを背負う奇抜なファッションもさることながら、イントロが大きく奏功した結果だと考える。「TOKIO」のイントロは、それくらい画期的なものだった。
80年代をグッと引き寄せる25秒。アルバムバージョンとは異なり、シングルではいきなりTOKIOの夜空を切り裂くようなギターから始まる。
「♪ジャッ・ジャラッ・ジャッ~」というコードカッティング(サブスクに入っているので、ぜひいま一度聴きながら読まれたい)。そのギターの音は確かにジャラッと歪んでいる。ただし、70年代ハードロック、例えば日本で大人気だった英国のバンド、ディープ・パープルのようなギターの音ではない。もっと軽くペラッペラな響きで、どちらかといえばハードロックというより、パンクな響きで迫ってくる。
当時、大阪のあるラジオDJが「セックス・ピストルズの『アナーキー・イン・ザ・UK』みたいやな」と言っていた。まさにそんな感じ。
と思っていると、その下に♪ポペポペ……と楽しそうに跳躍するベースが入ってきて、パンク的な暴力的イメージが取り払われる。曲全体が、どこかコミカルに躍動し始めるのだ。
弾いているのは、もちろん編曲を担当した後藤次利。そのチョッパー(スラップ)ベースで、ロンドンをあっと言わせた腕前が生きている。そして、ボーカルが入ってくる直前、「♪レーミレー・ラソミ」(キーはD)を繰り返す、いかにも80年という感じのピコピコしたシンセサイザーが割り込んでくる。
80年代後半には、既存のアナログ楽器を再現する「便利ツール」のようになるシンセだが、このころは「いかにもピコピコした」シンセが最先端だったのだ。
その下で──よく耳を澄ましてほしい──後藤次利のベースが超絶技巧を決めているのである。超絶過ぎて文字では書き表せないが、低音のレンジで得体の知れない何かが、とんでもなくはじけまくっているのが分かるだろう。
ここまで何度か使ってきた「ニューウエーブ」という言葉、若い方には分かりづらかったかもしれない。私の思うニューウエーブとは、言ってみれば、このイントロそのものである。
そして、このイントロだったからこそ、「TOKIO」は80年の象徴となれた、と私は思う。
▽スージー鈴木(音楽評論家) 1966年、大阪府東大阪市生まれ。早大政治経済学部卒業後、博報堂に入社。在職中から音楽評論家として活動し、10冊超の著作を発表。2021年、55歳になったのを機に同社を早期退職。主な著書に「中森明菜の音楽1982-1991」「〈きゅんメロ〉の法則」「サブカルサラリーマンになろう」など。半自伝的小説「弱い者らが夕暮れて、さらに弱い者たたきよる」も話題に。ラジオDJとしても活躍中。
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