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末期すい臓がんの58歳男性「まさか自分が延命治療の対象になるとは…」【老親・家族 在宅での看取り方】

日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年10月9日 9時26分

末期すい臓がんの58歳男性「まさか自分が延命治療の対象になるとは…」【老親・家族 在宅での看取り方】

写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

【老親・家族 在宅での看取り方】#114

 すい臓がん末期であり腹膜播種と診断された58歳男性が、最近、在宅医療を開始されました。

 この腹膜播種という言葉は、一般にはあまりなじみがないかもしれません。胃がんや卵巣がんで亡くなられる方の半数近くが、この腹膜播種による症状だといわれており、決して珍しい病気ではありません。

 人間の腹部には、胃、小腸、大腸、肝臓、胆のうなどの消化器官、女性ならばさらに卵管、子宮といった臓器があり、大きな袋状の細胞層で包み込まれています。それを腹膜と呼び、腹膜播種とはそれら臓器の内側にある粘膜から発生したがんが成長し、畑に種をまくようにがんがバラバラと散らばり、臓器の壁を突き破って広がる病態を指しています。

 まだ働き盛りのこの方は、今年の6月の健康診断で初めてがんの疑いがあるとの診断を受けたとのことでした。自営業の仕事が忙しく精密検査を受けられないまま時が過ぎ、9月のはじめに急に体がしんどくなって動けなくなり、入院。検査を受けたところ、末期がんで、予後(余命)3カ月と医師から伝えられたというのです。

 在宅医療を開始するにあたって、80代のお母さまと我々との間で、病状や治療についての状況の確認と情報の共有、これからどのような医療を選択するのかなど説明する機会を設けました。いわゆるIC(インフォームドコンセント)を開催したのです。しかし、そこでは退院時に本人が告げられたものより厳しいお話がされることとなったのでした。

 当初1~3月と伝えられていた予後は、実際には年齢がまだ若いこともあってかがんの進行が速く、一層短くなっていたのです。冷徹な現実は、まだ覚悟を決めかねている本人を置いてきぼりにしたまま、さらに先へと進んでいたのでした。

 ですが食事は口からしっかりと取れ、トイレも自力で行ける、そんなご本人にとって、この進行の速さはまさに青天の霹靂。

 ご本人の自覚は乏しく、とても仕事を行えるほどのADL(日常生活動作)ではないものの、「仕事を続けたい」とお話をされるのでした。

 ですから、もしものことがあった時に心臓マッサージなどの蘇生・延命行為を行うか行わないか、選べることをご本人とお母さまにお伝えした時などは、「まさか自分が……延命を受けるかもしれない状態になっているなんて考えていなかったなあ」と現実を受け入れることに戸惑われておられたご様子でした。

 それでも冷静にお話を進め最終的には、延命行為は希望しないということ、そしてお母さまによる看取りにより、自宅で行うことに同意されたのでした。

 仕事に精を出しこれからもっとビジネスを成長させるんだと希望に燃えていた現役世代の方が、思いがけずがんを発病することは、いまや珍しいことではありません。

 私たちにできることは在宅医療の現場にあっては、ただ対話を通じてご本人や家族の疑問に答え、不安を解消し納得していただき、少しでも苦痛を取り除くことのみなのです。

(下山祐人/あけぼの診療所院長)

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