選択を迫られたとき、異なるフィルターを通して考えてみる【科学が証明!ストレス解消法】
日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年10月11日 9時26分
写真はイメージ(C)iStock
【科学が証明!ストレス解消法】#186
言葉のニュアンスによって、人間の意思決定は変わってしまいます。
以前、当コラムで「フレーミング効果」と呼ばれる、同じ情報であったとしても言葉の言い換えによって異なる印象を与え、意思決定に影響を及ぼしてしまうことについて説明しました。
例えば、「1000人のうち、300人が助かる薬」と表記するのと、「1000人のうち、700人の命が失われる薬」と表記するのとでは、受け手の印象はガラッと変わってしまうなどです。
英語には、「グラスは半分空ですか、それとも半分いっぱいですか?」(glass-half-empty/glass-half-full)といった言い回しがありますが、特定の状況や社会に対する悲観的な見方と楽観的な見方が世の中には存在します。人間は現金な生き物ですから、ネガティブな印象を与えられると、そちらに寄った考え方をしてしまう性質を持っているとも付言しました。
こうした事実をもとに、シカゴ大学のボアズ・ケイサーらは、母国語と第2言語が意思決定にどのような影響を及ぼすか、興味深い実験(2012年)を行っています。
スペイン語を第2言語とするシカゴ大学の学生54人を集め、各自に15ドルを1ドル紙幣×15枚で手渡しました。その1ドル紙幣は、「そのまま受け取ってもいい」ケースと、「コイントスに賭け、勝てば1.5ドルになり、負けると賭けた1ドルを失う」ケースを選ばせたといいます。後者は、リスクを伴うものですが、15回チャンスがあるわけですから、15ドル以上が手に入る可能性が十分あります。
この提案を、ケイサーは英語とスペイン語で行いました。その結果、英語で提案した場合は、賭けに応じた学生は54%にとどまったのですが、スペイン語で提案した場合は、なんと71%の学生が賭けに応じたといいます。
ケイサーは、「外国語で意思決定をすると、短期的な損失を避ける傾向が弱くなり、長い目で見れば、こうした判断はメリットになる可能性が高くなる。そのため、賭けに乗る確率が高くなった」と推測しています。
母国語だとネガティブな面がダイレクトに入ってくる半面、第2言語であればダイレクトに入ってきづらくなるため、過剰反応にならなかった--。
これらの結果を踏まえ、第2言語は本能的な反応から一歩距離を置く効果を持ち、短絡的な決断を回避する利点があると、ケイサーは結論付けています。同じ状況でも、言葉のニュアンスが変わる、あるいは意図的に異なるフィルター(先の実験で言えば第2言語)を通すことで、人間の決断は変わるというのです。
私たちが何かの選択をするとき、あるいは選択を迫られたとき、異なるフィルターを通すことは思いのほか有効な手段になると言えそうです。
友人の助言でもいいでしょう。人間には、「ネガティビティーバイアス」という“悪い点を見がち”な性質が備わっています。それを緩和するためにも、あえてフィルターを通して考えてみることは大切なのです。
(堀田秀吾/明治大学教授、言語学者)
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