菊之助の“御曹司以外”抜擢、右近の「書き出し」…10月歌舞伎座は音羽屋が奮闘
日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年10月17日 9時26分
歌舞伎座(C)日刊ゲンダイ
10月の歌舞伎座の昼の部は、音羽屋一門を中心にした座組。
まずは菊之助の初役シリーズで『平家女護島/俊寛』。菊之助自身が初役であるだけでなく、父・菊五郎も演じていない役だ。来年の菊五郎襲名を前にして、菊之助は芸域と相手役の拡大戦略をとっているが、ついに、岳父・吉右衛門の当たり役・俊寛に挑んだ。菊之助は吉右衛門の芸をなぞらない。絶叫しない俊寛を提示する。
脇を固めるのは播磨屋一門の歌六、又五郎、吉之丞。最近の菊之助のもうひとつの戦略が、いわゆる御曹司以外からの抜擢で、今回は千鳥に上村吉弥の弟子、上村吉太朗を起用して、驚かせた。吉太朗は重圧があるだろうが、軽やかに好演。
次の『音菊曽我彩』は音羽屋色が強い。右近と眞秀が曽我兄弟の「曽我の対面」。右近もついに歌舞伎座で「書き出し」のポジションを得るようになってきた。華やかな舞台で様式美の極みで、菊五郎がその声のよさで圧倒的な存在感を放つ。
続いて、中村獅童が加わって、尾上松緑、中村時蔵らとの『権三と助十』。岡本綺堂による人情噺ミステリー。獅童が出ると爆笑コメディーになりがちだが、若い時蔵がうまくコントロールしていた。
昼の部は、それぞれタイプが違うが、いかにも歌舞伎らしい演目が揃ったが、夜の部は一転して、新派『婦系図』と新作『源氏物語』。玉三郎と仁左衛門、そして染五郎が出るので早い時期に完売となり、ロビーも混んでいた。
泉鏡花の『婦系図』を、仁左衛門と玉三郎が共演するのは初めてというのは意外だった。この半世紀にわたる名コンビも、まだまだ2人でやっていないものがあるのだ。
玉三郎はコロナ前までは、若手の女形を共演しながら鍛えて、「玉三郎スクール」とでも呼べることをしていたが、そのスクールは女子校だったのが男女共学になり、先月に続いて染五郎と共演している。
玉三郎が選んだのは『源氏物語』で、染五郎の光源氏を相手に、六条の御息所で出て、さらに舞台全体の監修もつとめる。シンプルだが手の込んだ舞台装置も照明も、いかにも玉三郎ワールドで、まわり舞台の使い方もいい。染五郎、葵の上の時蔵も健闘し、美しい。「見る」だけなら絶品の舞台となった。
だが、肝心の台本がよくない。昔の昼メロの三角関係みたいな痴話ゲンカにした解釈もどうかと思うが、状況も心情もすべてをセリフで説明して、情緒も何もない。「源氏物語」のファンは怒るのではないだろうか。
(作家・中川右介)
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