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《杉内俊哉の巻》「熱い男」一度だけ見せた弱気「お願いだから点を取ってください」【ホークス一筋37年 元名物広報が見た「鷹の真実」】

日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年10月23日 17時0分

《杉内俊哉の巻》「熱い男」一度だけ見せた弱気「お願いだから点を取ってください」【ホークス一筋37年 元名物広報が見た「鷹の真実」】

杉内俊哉(C)日刊ゲンダイ

【ホークス一筋37年 元名物広報が見た「鷹の真実」】#21

 杉内俊哉

  ◇  ◇  ◇

 現在、巨人で投手チーフコーチを務める杉内俊哉(43)の性格をひと言で言えば、「熱い男」です。

 入団3年目の2004年、KOされた自身の不甲斐なさに怒り、ベンチを殴って両手の小指を骨折したのは有名な話です。福岡ドーム(現みずほペイペイドーム福岡)の第2ロッカールームは喫煙スペースにもなっていたのですが、杉内が打たれて降板すると、そこから「ガシャーン!」と大きな音が聞こえてくる。怒りで灰皿を蹴飛ばし、あたり一面に吸い殻や灰が散乱。それを掃除するのも僕ら裏方の役目なんです。

 杉内に限らず、活躍する選手、特に昔かたぎの性格ほど、そうした面は往々にしてある。後輩の広報は「何があったんですか?」と驚いていましたが、まあそういうこともあるよ、と。

 勝って泣いたのが西武と9月末まで優勝争いを繰り広げた10年です。この年は最終的にゲーム差なしの勝率2厘差で優勝。一戦も負けられない中、杉内は札幌で日本ハムのダルビッシュ(現パドレス)と投げ合い、1-0の完封勝利。杉内は感極まり、「よかった……ヤフードームで勝ってつないできて、勝ててよかった……」と、ボロボロ涙を流していました。優勝を決めたのは翌日の試合だったので、杉内も感無量だったはずです。

 そんな男が一度だけ、弱気な態度を見せたことがありました。敵地・仙台での楽天戦。ブルペン投球を終えた杉内は野手陣の元に来るなり、「お願いだから点を取ってください」と頭を下げました。マウンドが合わず、杉内も「違和感しかない」と話していました。

 試合が始まると、僕が見ても明らかに腕の位置が下がっており、制球に四苦八苦。野手が頑張って何点か取り、「これだけ点を取れば……」と言っても、杉内は「いやいやいや、ほんとにマウンドが合わないんで、何点でもいいからお願いします」と再び頭を下げる。これまでなら「1点でも取ってくれたら投げ切ってやる」と言わんばかりの杉内の珍しく弱気な姿でした。でも、その根底にあるのは最後までマウンドを守り抜きたい、という投手としての思い、プライドだったのでしょう。

 同学年で同じ左腕の和田毅とは共に切磋琢磨するライバル関係。互いに意識するからかあまり絡みはなく、「サウスポー論」という本で2人が共演した時は僕も「よく受けたなあ」と驚いたほどです。杉内は「渋々でしたが、僕的においしい仕事だったんで」と笑っていました。もっとも、本の中では2人とも「先輩の斉藤和巳をどう追い抜くか」と常に考えていたなど、彼らの興味深い一面を知ることもできました。

(田尻一郎/元ソフトバンクホークス広報)

  ◇  ◇  ◇

 次回は平成の三冠王、《松中信彦の巻》。

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