ジャニーズ性加害問題は組織犯罪。喜多川ひとりを悪魔化して属人的問題に帰することは、巨大な性犯罪の矮小化につながる【松尾潔のメロウな木曜日 拡大版】
日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年10月24日 16時3分
そして日曜(20日)のNHK総合。大河ドラマ『光る君へ』放映後の余韻残る21時からの『NHKスペシャル』は、「ジャニー喜多川“アイドル帝国”の実像」と題して、風化が懸念されるこの問題について1時間の特集を組んだ。語るべきポイントはいくつかあるが、なかでも大きなインパクトがあったのは、性被害者である故・中谷良さん(男性4人組グループ『ジャニーズ』の元メンバー)の姉・幸子さんとスマイル社の補償本部長の、電話のやりとりだろう。
本部長は良さんがジャニー喜多川氏を告発する本を出版したことを徹底的に問題視し、事もあろうに「会社として痛めつけられた」「心の底からお詫びできない」と主張するのだ。「(良さんの)お墓行って、お参りしてくれる?」という幸子さんの提案には「それは東山がするの?」とぞんざいな口調で返す始末。念のために書くが、1947年生まれの良さんの姉である幸子さんは80歳くらいと思われる。そもそも実弟の性被害に関して問い合わせている。その幸子さんにタメ口を使うのだ、本部長殿は。いやあ、驚いた。画面はこのトーンで延々と続く電話のやりとりを映しつづける。スマイル社が賠償金支払いを渋り、謝罪をあからさまに拒む実態を目の当たりにして、ぼくは言葉を失った。本部長の要職に就く者があんな態度だと、補償と救済を訴える被害者サイドは、相当タフなマインドがなければ途中ですべて放りだしたくなるだろう。スマイル社がホームページで発表する「補償内容の合意者数」「補償金の支払者数」といった数字からは、こんな実態は見えなかった。被害者救済にはほど遠いことが可視化されたのが番組最大の功績か。
全体としては課題も残す内容だったという厳しい声もネットでは散見されるが、会長の定例会見直後の週末というタイミングでの強力な注意喚起、そしてある意味でNHK内部告発という役割も果たしたことは高く評価したい。NHKプラスやNHKオンデマンドで今でも観ることができるので、未見の方はぜひご覧になることをお勧めする。
〈構造〉を変えないことには、エンタメにもこの国にも未来はない
Nスペを観て痛感したのは、ジャニーズ性加害問題は組織犯罪であるということ。ジャニー喜多川ひとりを過剰に悪魔化して属人的問題に帰することは、巨大な性犯罪の矮小化につながる。子どもの人権問題に詳しいジャーナリスト今一生さんがつねづね指摘してきたように、この国の「子どもの被害に対する無関心」がこれほどの地獄を生みだしたのだ。
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