命を延ばす薬(4)心不全に対するACE阻害薬…延命効果は41日?
日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年10月25日 9時26分
写真はイメージ(提供写真)
高血圧の治療薬のひとつに「ACE阻害薬」という薬があります。ACEとはアンジオテンシン変換酵素と呼ばれる体内酵素のことです。ACEは血圧を上昇させる体内物質であるアンジオテンシンⅡの産生を促し、血圧の上昇を引き起こします。ACE阻害薬は、ACEの働きを抑えることで、アンジオテンシンⅡの産生を抑制し、血圧の上昇を抑える効果が期待できるのです。そのため、高血圧の治療薬として広く用いられてきました。
アンジオテンシンⅡはまた、体内の水分排泄を抑えたり、血管を収縮させたりすることで、心臓のポンプ機能に負担をかけることが知られています。心臓のポンプ機能が低下した状態を心不全と呼びますが、ACE阻害薬は心不全の治療薬としても用いられてきました。
心筋梗塞など心臓病の発症リスクが高い9297人を対象とした臨床試験では、ACE阻害薬である「ラミプリル」(日本では未承認)を投与することで、プラセボの投与と比べて、心筋梗塞、脳卒中、および心臓病による死亡が22%、統計学的にも有意に低下しました。また、心不全を有する2569人を対象とした臨床試験では、ACE阻害薬である「エナラプリル」を投与することで、プラセボ投与と比べて、死亡リスクが16%、統計学的にも有意に低下しました。
さらに、臨床試験3研究を統合解析した研究論文によれば、心不全患者に対してACE阻害薬を投与すると、プラセボを投与した場合と比べて、平均で41日間の延命効果が得られました。なお、このデータは3年間の調査期間に基づく解析結果であり、実際の寿命を踏まえると、より長い延命効果が得られるものと考えられます。
もし仮に、調査期間と延命効果が比例するのであれば、30年間で410日の延命効果が得られることになります。ただし、この延命効果の見積もりは、単純計算に基づく筆者の仮説にすぎません。死亡リスクに与える要因は多岐にわたるため、実際の延命日数の見積もりには大きな不確実性が伴います。ACE阻害薬を服用しても、大きな延命が得られない人もいる一方、平均的な効果よりも長い延命が得られる人もいることでしょう。
とはいえ、心不全患者や高血圧患者におけるACE阻害薬の有効性は決して小さいものではありません。近年では、心不全に効果が期待できるとされる薬が数多く登場しています。そのような中でも、ACE阻害薬はβ遮断薬と同様に、心不全治療に対する標準的な治療薬としての役割を担っています。 =おわり
(青島周一/勤務薬剤師/「薬剤師のジャーナルクラブ」共同主宰)
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