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過労死を防ぐには「衝動」を見逃してはいけない…隠れ疲労に注意

日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年11月2日 9時26分

過労死を防ぐには「衝動」を見逃してはいけない…隠れ疲労に注意

疲労感は“危険信号”

 過労死や長時間労働の問題を解消するため、2021年にいわゆる「過労死ライン」が見直された。今年の4月1日からは、医師、運送業、建設業の3業種で、時間外労働の上限規制が始まり、「2024年問題」として議論が続いている。働く人の命や健康を守るために労働環境の改善は重要な課題といえるが、一方で、「疲労」を見逃さないことも大切だ。「東京疲労・睡眠クリニック」院長の梶本修身氏に聞いた。

 われわれが「疲れた」と感じるのはエネルギーを消費して体が疲弊したからではなく、脳の中にある自律神経の中枢に大きな負担がかかったからだという。

「自律神経は、体温、血圧、呼吸、心拍数、睡眠、摂食など、人間が生命を維持するために必要なあらゆる身体活動をコントロールしています。仕事や運動によってその自律神経が酷使されると、脳の細胞で活性酸素が発生し、酸化ストレスの影響で本来の自律神経の機能を果たせなくなってしまいます。これが、脳で疲労が生じている状態=脳疲労です。『自律神経が疲れた』という情報が脳の眼窩前頭野に送られると、そこで『体が疲れた』という情報に書き換えられ、体全体の『疲労感』を自覚するようになります」

 つまり「疲労感」は、それ以上、体を動かすなどして自律神経に大きな負荷をかけさせないようにするための“危険信号”なのだ。

 そんな疲労感という生体アラームを無視してそれ以上の無理を続けると、体に害が及び、最悪の場合、過労死を招く結果になりかねない。しかし、実際には疲労が蓄積していても、われわれは疲労感を自覚できないケースが少なくないという。

「疲労感を自覚する眼窩前頭野は脳の前頭葉にあります。前頭葉は『意欲や達成感の中枢』と呼ばれていて、たとえば仕事で成果を出すなどして意欲や達成感が高まり、興奮したり幸福感や高揚感があると、実際は疲労が積み重なっているのに疲労感として変換されず、疲労を感じなくなってしまうのです」

■普段と違う行動の裏に…

 過労死や過重労働による健康被害を回避するには隠されて自覚できないことがある疲労感を見逃さないことが大切になる。そのカギになるのが「衝動」だ。

「衝動というのは、意識に上らないところにある情報が全身から集まって生じる何らかの反応で、最初に現れる慢性的な疲労の兆候です。たとえば、いつもは歩く距離なのにタクシーに乗りたくなる、楽しいはずの遊びの予定が面倒くさく感じる、本来は好きで苦にならない作業なのにやる気が起きない……といったように、知らず知らずのうちに普段と違う行動をしてしまうのが衝動です。こうした衝動があれば、じつは疲労がたまっていると疑ったほうがいい」

 また、「飽きる」ことも衝動に該当する。デスクワークやパソコン作業を続けていると、なんだか飽きてきて、ついついスマホを手に取っていたなんて経験が誰しもあるだろう。これは、脳の同じ神経細胞を使い続けていることにより特定の神経回路が疲弊しているから、「違う作業をして休ませてほしい」という訴えから生じる衝動で、最初に現れる疲労のサインだという。

「こうした衝動があれば、疲労がたまっていると認識して、まずは無理せずに休息をとりましょう。疲労をしっかり回復させるには自律神経を休ませなければならないため、十分な睡眠が欠かせません。就寝前はスマホを見ない、朝起床したら光を浴びる、朝食をしっかり食べるなどを意識するだけでも、睡眠の質が高まります」

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