長寿研究のいまを知る(9)長寿におけるmTOR阻害薬とカロリー制限の関係
日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年11月7日 9時26分
カロリー制限を短期間で繰り返すことでかなりの効果が
短期間「ラパマイシン」と呼ばれるmTOR阻害薬を使うと寿命が延長することは、酵母、線虫、ショウジョウバエ、マウスなどでの複数の実験で証明されている。では、ヒトではどうか?
そのものズバリの研究ではないが、興味深い研究結果が2014年に発表された。海外論文で、ラパマイシンの誘導体(有機化合物の母体部分はほぼ同じで、一部分だけが異なる物質)である「エベロリムス」と呼ばれる薬を66歳以上の人に少量投与したところ、インフルエンザワクチンに対する反応が20%改善されたことが報告されている。
18年にはそれに続く研究結果が公表された。健康な65歳以上の高齢者264人を対象に、ラパマイシンの誘導体を含む2種類のTOR阻害薬を6週間投与。内容量と阻害薬の組み合わせにより5群に分けて1年間観察して比較した。ラパマイシンの誘導体と別のTOR阻害薬を併合して投与した群は、風邪などの呼吸器疾患を40%減少させ、インフルエンザワクチンによる抗体産生能が上昇したという。
ハーバード大学医学部&ソルボンヌ大学医学部客員教授の根来秀行医師が言う。
「細胞内の栄養状態を監視して細胞増殖・分裂のタイミングを決めるmTORを働かせないようにすると、細胞は栄養不足と判断して分裂に使うエネルギーを節約してオートファジー(自食作用)に振り向けます。すると細胞内ではタンパク質を新たに合成せず、細胞内の不要なタンパク質などを再利用する。その結果、細胞の増殖スピードは緩やかになり、老化も遅くなる。つまり、mTORの活性化を抑えることが寿命の延長に役立つ可能性があるのです」
■細胞内が飢餓状態に置かれることが重要?
そこで思い出されるのが、ヒトはカロリー制限した方が寿命が延長するという考え方だ。
実際、栄養失調にならない程度のカロリー制限を続ければ長生きすることは、さまざまな実験で実証されている。mTOR阻害薬であるラパマイシンがmTORを働かせないようにすることは、カロリー制限をしている状態にするのと同様と考えられる。
「カロリー制限が健康と長寿にどう影響するのかを検証する実験はこれまでも幾度となく実施され立証されています。その結果、酵母、ショウジョウバエ、マウスなど種を超えた、共通の抗老化システムが存在することがわかりました。ヒトにおいても、いくつかの観察研究により、無理のないカロリー制限でも、長寿につながる可能性があることが知られています」(根来医師)
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