東京五輪銀・競歩のエースに“あり得ない”血液ドーピング…疑惑を晴らすのは陸上界の重要な仕事だ
日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年11月9日 9時26分
池田尚希(C)共同通信社
【スポーツ時々放談】
池田向希(旭化成)のドーピング疑惑報道には驚いた。
競歩界のエース、東京五輪とオレゴン世界選手権のメダリストは、歩形の美しさで国際的にも知られ、例えるなら80年代の瀬古利彦のような存在だ。
世界陸連の独立監査機関(AIU)から暫定的な資格停止処分が下され、所属する旭化成、日本陸連が処分取り消しの手続きに入っている。禁止薬物違反ではなく、定期的に検査される生体パスポートの血液データに異常があったため、血液ドーピングが疑われているという。
血液ドーピングとは、自分の血液を抜いて冷凍保存し、レース前に輸血することで赤血球を増やし、酸素運搬能力を高める原始的な方法。戦前から陸上長距離種目で行われていた。
1984年のロス五輪を思い出す。男子1万メートルで2位になった選手が筋肉増強剤(ステロイド)の薬物違反で失格になった。五輪前の検査はシロ。ところが、薬を使った時期の血液をレース前に注入したことで薬物使用がバレた。お粗末な話だったが、後に優勝選手も血液ドーピングを打ち明けている。当時は合法で、別人の血液を輸血した死亡事故をきっかけに87年に禁止された。
そもそも選手単独ではできない組織的なものだ。冷戦時代の国威発揚とか、いまなら相当の経済的メリットがなければ組織的にやる意味はなく、同じ効果が期待できる高地トレーニングという合法手段も一般的になっている。莫大な賞金や契約が介在するマラソンと異なり、カネに縁がない競歩に、まして血液ドーピングはあり得ない話だが、AIU検査で数値が出たのは事実だ。
駅伝のブームに乗って、いまや箱根駅伝の有力校だけでなく市民ランナーも低酸素トレーニングの施設を利用し、サプリメントも多様化している。メーカー先行の影響はないかなど、徹底的な調査が求められる。
競歩にビデオ導入はあり得ない。審判の目視がすべて、ルール絶対という稀有な種目で、日本人気質に合っているし選手も育っている。今回の背景を妥協なく探り、エースにかけられた嫌疑を晴らすことは、来年、日本で3度目の世界選手権を迎える陸上界の重大な仕事になる。
(武田薫/スポーツライター)
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