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医者嫌いの養老孟司先生が肺がん治療を受け入れた要因【中川恵一 がんサバイバーの知恵】

日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年11月9日 9時26分

医者嫌いの養老孟司先生が肺がん治療を受け入れた要因【中川恵一 がんサバイバーの知恵】

養老孟司氏(C)日刊ゲンダイ

【Dr.中川 がんサバイバーの知恵】

 私の恩師・養老孟司先生ががんになりました。すでに治療を終え、いままで通りの生活に戻っていますが、治療前後で先生の考え方が大きく変わったことはこの連載の読者の方にも参考になると思います。そのさわりを紹介しましょう。

 養老先生のがんが見つかったのは今年4月。先生のお嬢さんから私に電話があり、「去年の秋から肩の痛みが背中全体に広がってきたのです」とおっしゃるので、電話の翌日、私の外来を予約して、先生を連れてきてもらいました。

 診察や針生検などの結果、小細胞肺がんのステージ2と判明。肺がんは細胞の大きさで、喫煙者に多い小細胞型とたばこを吸わなくても発症する非小細胞型に大きく分かれ、ヘビースモーカーの先生は小細胞型でした。これは、非小細胞肺がんと比べて増殖が速く、再発や転移を起こしやすいのが特徴です。肋骨に食い込んで痛みがあったことで早く気づけたのはラッキーだったでしょう。発生が中央部だったら、もっと大きくなって転移するまで見つからなかったかもしれません。

 治療は、このタイプの基本である化学放射線療法をほとんど迷うことなく選択されました。今回の肝はここです。詳しくは、私との共著「養老先生、がんになる」(エクスナレッジ)に譲りますが、ポイントを紹介します。

 養老先生は医者嫌いで知られ、特に抗がん剤には否定的で「がんになっても抗がん剤は受けない」と公言されていました。

 診断がついた当初、このがんの5年生存率が3割ほどであることを知ってか、「完治は望んでいないので、治療はテキトーに」とおっしゃっていたほどです。

 その先生が私の説明やご家族の気持ちなどを受けてほぼ迷いなく標準治療を選択された要因は、目の前の仕事の存在があったと思います。ライフワークにされている虫の研究の一環で、虫法要と虫展が目前に迫っていたときでした。その仕事をやり遂げたいという気持ちが強かったのだと思います。

 幸い、抗がん剤の副作用も軽く、続く放射線治療も完遂。いまは経過観察を続けながら、ふだんの生活に戻っています。

 治療前の先生のように抗がん剤に否定的な人は少なくありません。私も無謀な抗がん剤はお勧めしませんが、適切に使えば決して悪いものではなく、著しい回復を見せることがあるのです。先生の考え方の変化と治療後の回復は、抗がん剤の認識を改めるキッカケになるエピソードだと思います。

(中川恵一/東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授)

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