日本の薬は大丈夫か?(2)漢方薬はジェネリック以上の供給不安
日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年11月13日 9時26分
国内生薬栽培の先行きも苦しい
ジェネリックだけではなく、「漢方薬」も供給不安が続いています。昨年の秋に、漢方の大手メーカーが「麦門冬湯」と「五虎湯」の出荷を停止しました。新型コロナの影響で、通常のせき止め薬が品薄になったため、代替品として漢方薬を処方する病院が急増して、そのあおりで供給を止めざるを得なかったのです。
さらに12月には、同じ理由で「葛根湯」が品薄状態になりました。それが引き金となり、ドミノ倒し的に各社の供給が停止したり限定出荷になったりして、品薄感が一気に高まりました。
現在は葛根湯と五虎湯は通常出荷に戻っていますが、麦門冬湯は多くの会社が限定出荷を続けています。しかしこれからインフルエンザの流行シーズンに入るため、再び供給が不足するかもしれません。
漢方薬の原料となる「生薬(薬草)」の大半は、中国からの輸入です。日本における生薬の年間使用量は約2万8000トン(2023年)ですが、国産は約2900トンに過ぎません。
その中国ですが、野生の薬草がかなり取りつくされ、しかも環境破壊につながることから、採集制限が強化されています。また中国国内での需要も増えているため、甘草など主要な生薬には輸出規制がかけられています。しかも中国政府が食料生産を優先しているため、生薬の栽培量が減少しているといわれています。加えて円安の影響や、欧米諸国における漢方人気もあって、輸入価格は2021年と比べて約1.6倍に高騰しています(農林水産省)。
農水省は国内の生薬栽培を増やそうとしていますが、生産農家は減少傾向です。国産生薬は、主に漢方薬メーカーからの委託栽培です。企業から提供される苗を育てるのが農家の仕事で、できたものはすべてメーカーが買い上げます。
しかし最終的な薬価が決まっているため、質のいいものを作っても、買い上げ価格には上限があります。また薬草の多くは収穫までに2年以上を要します。すぐには現金収入に結びつかないことなどから、若い農家の参入は少なく、高齢化が進んでいます。
このままではジェネリック以上に供給不安が続くことは明らかですが、われわれとしては、手をこまねいて推移を見守るしかありません。
(永田宏/長浜バイオ大学コンピュータバイオサイエンス学科教授)
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