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こまつ座「太鼓たたいて笛ふいて」林芙美子の心の漂泊を大竹しのぶが絶妙に演じ切っている(山田勝仁/演劇ジャーナリスト)

日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年11月14日 9時26分

こまつ座「太鼓たたいて笛ふいて」林芙美子の心の漂泊を大竹しのぶが絶妙に演じ切っている(山田勝仁/演劇ジャーナリスト)

(撮影)宮川舞子

【演劇えんま帳】

 2002年に初演。前回から10年ぶり、5度目の再演となるが、上演するたびに舞台のテーマと反比例するように世の中のキナ臭さが増しているようだ。

 主人公の林芙美子は私生児として生まれ、養父・実母と共に行商を営みながら日本の各地を放浪。実際につけていた日記をもとにした自伝的小説「放浪記」(1928年)がベストセラーとなる。当時の女性が置かれた悲惨な現実を描いたことから抑圧された女性たちの共感を得たのだが、売れっ子作家になると、次第に国家に絡めとられていく。

 1935年、戦争の足音が聞こえ始めた頃、後に政府の宣伝担当になる音楽プロデューサーが芙美子にささやく。

「世の中を動かすのは『ものがたり』です。今も昔も変わらないのは『戦争は儲かる』というものがたり。その『ものがたり』に国も国民大衆も熱狂するのです」

 時流に合わせるかのように、芙美子は従軍記者として戦地に赴き、戦争を賛美し、兵隊の士気を高めた。

 だが、敗戦間際、信州に疎開していた芙美子は村の集会で「ここまできたら日本はきれいに負けるほかない」と言い切る。「滅びるにはこの国があまりにすばらしすぎるから……」とも。

 従軍記者として南京攻略に立ち会い、東南アジアを歴行した芙美子は日本軍の「聖戦」の実体を知ったに違いない。そして、戦後は庶民の日常や悲しみを、ただひたすらに書きつづっていく。タイトルの「太鼓たたいて笛ふいて」は芙美子の内省を指す言葉だ。

「太鼓たたいて笛ふいてお広目屋よろしくふれてまわっていた物語が、はっきりウソとわかったとき……私は命を絶つしかないと思った。わたしの笛や太鼓で踊らされた読者に申しわけがなくてね」

 芙美子の波乱の生涯に、文化・芸術に関わる者の戦争責任問題を重ね合わせた井上ひさし。

 翻って今の日本。「原発は儲かる」という「大きなものがたり」がとっくに破綻したのに、「原発再稼働」ばかりか、「台湾有事」にかこつけた軍拡という「大きなものがたり」が再び大手を振って歩き始めた。泉下の作者の悲嘆の声が聞こえるようだ。

 初演以来、持ち役にし、第10回読売演劇大賞最優秀女優賞を受賞した大竹しのぶは、奔放だが人間的な魅力に満ちた芙美子の心の漂泊を力みなく自然体で演じた。

 11月30日まで紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA。大阪、福岡、名古屋、山形公演あり。

 ★★★★

(山田勝仁=演劇ジャーナリスト)

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