野村証券のリテール営業が“崩壊危機”…社員が強盗殺人未遂で逮捕の衝撃
日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年11月14日 9時26分
野村證券本社(C)日刊ゲンダイ
【経済ニュースの核心】
四半世紀余り前の事件を想起した金融関係者も少なくなかったに違いない。証券最大手・野村証券の広島支店勤務の29歳男性社員(懲戒解雇済み)が顧客夫婦に睡眠作用のある薬物を飲ませたうえ居宅に火を放ち、現金約2600万円を奪い取ったとして先月末、強盗殺人未遂および現住建造物等放火の容疑で同県警に逮捕された。個人で行っていた投資による損失の穴埋めや新規投資に充てるのが目的とされ、あらかじめ夫婦に現金を用意させるなど「計画的犯行」(捜査関係者)とみられている。
会社のブランドと信用を利用して顧客の財産ばかりか命まで狙う。何ともおぞましい話だが、実は金融界では1998年7月にも同様の事件が起こっている。富士銀行(現みずほ銀行)行員顧客殺害事件――。富士銀行の春日部支店に勤めていた30代行員が、取引先である全盲のマッサージ師男性とその妻の首を絞めて殺害。夫妻に対する2500万円の債務の存在を示す証拠(=名刺)を持ち去った事件だ。
当時は前年に山一証券や北海道拓殖銀行が経営破綻。事件があった年には日本長期信用銀行や日本債券信用銀行の実質破綻も明らかになるなど金融界は混乱の極みにあった。おまけに新宿の「ノーパンしゃぶしゃぶ」店などを舞台にした大蔵省・日本銀行員らによる「接待汚職事件」まで発覚する始末。バブルの生成と崩壊の中で、簿外への損失飛ばしや数々の乱脈融資の実態が明るみに出るなど金融界のモラルハザードぶりが世間を呆れ果てさせてはいたが、富士銀事件はそんな破廉恥で不道徳な金融界をも「文字通り震撼させた」(メガバンクOB関係者)。
そりゃそうだろう。銀行員が取引先の顧客を殺して金品を奪うという事件は、預金者のカネに行員が手を付けるといった、ありふれた不祥事とはわけが違う。「信用」を唯一無二の金看板に掲げて事業を展開する「金融業というビジネスモデルの崩壊そのもの」(地銀大手幹部)だ。命まで取られるとあっては、金融機関に資産を委ねる人間など誰もいやしない。
野村首脳陣の衝撃は大きい。回転売買推奨から預かり資産増強へと切り替えたリテール営業の取り組み姿勢が「ようやく花開きつつあった矢先でもあった」(事情通)からだ。責任もまた、重大だ。
(重道武司/経済ジャーナリスト)
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