ヒトの羊膜で足の傷を治す「エピフィックス」とはなにか?【日本版「足病医」が足のトラブル解決】
日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年11月14日 9時26分
足にできた傷は通常4週間以内で自然と治癒していくが…
【日本版「足病医」が足のトラブル解決】
足に傷ができると、通常であれば4週間以内で自然と治癒していきます。ところが糖尿病や下肢循環不全などの基礎疾患があると、血行障害や神経障害、免疫機能の低下で傷が治らなくなる「難治性潰瘍」の状態になりやすい。従来の治療では改善が見られない難治性下肢潰瘍の新しい治療法として注目されているのが「エピフィックス(EpiFix)」です。
これは、ヒトの胎盤の羊膜・絨毛(じゅうもう)膜を加工、乾燥させて作られたシート状の創傷被覆材で、帝王切開を受けた妊婦さんから提供された胎盤を原料としています。“ヒトの羊膜で治療”と聞くと少し驚かれるかもしれませんが、タンパク質や成長因子を多く含む羊膜は、創傷治療に重要な炎症抑制作用や血管形成促進、瘢痕(はんこん)組織(傷が治癒する過程でできる組織)形成を低減させる作用があるため、昔からさまざまな治療に用いられてきました。現在、保険適用になっているのは「糖尿病性足潰瘍」あるいは「静脈うっ滞性潰瘍」の2つで、これまで治癒が難しかった症例に対しても高い有効性を示すことが分かっています。
ある60代の男性は、右足首の内側に何度もうっ滞性潰瘍を繰り返して皮膚がもろくなり、そこに深い傷ができていました。
治癒を促すために皮膚移植を行ったものの、移植した皮膚を植え込む部位の状態が悪く、うまく生着しませんでした。
そこでエピフィックスを1週間に1回貼り替えて2週間続けたところ、いくら治療しても治らなかった深い傷が塞がり、現在も再発することなく過ごされています。
ほかにも、エピフィックスは糖尿病性足潰瘍で指を切断した患者さんに対しても有効です。
足の指を付け根で切断すると、骨や筋肉がなくなり中は空洞になります。周囲に残った筋肉を継ぎ合わせても、本来、骨があった部分に空間ができるので、そこを埋めるために筋肉を盛り上がらせる必要があります。切断した部位にエピフィックスを貼ると、通常であれば1カ月以上かかる肉芽の再生がこの患者さんの場合は約1~2週間で完成し、治療期間を短縮することができました。
エピフィックスは1平方センチメートルあたり約3万円と高額で、傷の範囲によって費用が異なります。しかし、治療期間短縮のメリットがあります。高額療養費制度を利用できるので、治療を希望される際は医師によく相談してください。
(田中里佳/順天堂医院足の疾患センター長)
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