幻視、幻覚、被害妄想があった母を遠距離からどう支援したのか【正解のリハビリ、最善の介護】
日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年11月20日 9時26分
それでも、歩行はすり足で、徐々にスピードは遅くなりました。物とられ妄想や被害妄想は継続し、幻視も続きましたが、会話は普通にできて礼節も保たれています。面白いことに、すぐ怒るような“怖い人”を敏感にとらえて、距離を置いて過ごしていました。
私は地元総合病院の主治医の先生と相談しつつ、微量な向精神薬治療を使って“可愛い礼節のあるおばあちゃん”が維持できるように内服調整しました。主治医の副院長先生は、「この程度の内服でこんなに効果が出るのは凄いですね。勉強になりました」と喜ばれました。
ある日、施設の自室で転倒して、大腿骨転子部骨折を起こしました。母が「ま~くんに怒られる」と口にしていると、施設の方から電話がかかってきたのです。結局、地元の主治医のいる総合病院に入院となり、保存的治療の方針となりました。しかし、入院後1週間で急性心不全により、突然他界しました。
母の病態は、レビー小体型認知症でした。最後まで子供たちに迷惑をかけたくないという本人の希望に沿い、施設で入浴以外は介助なしの生活ができていました。
遠距離で暮らしている親子は、頻繁に会ったり、介護のために休暇をとったりはできません。しかし、親子の距離感を保つことはとても大切です。
私が遠く離れた故郷にある地元の介護サービスや施設、かかりつけ医、総合病院と連携して、両親を最後まで地元で看取れたのは、自分が医療介護に精通した専門職であったこと、総合病院で勤務している医師がほぼ母校の後輩たちだったことが大きかったと思っています。
しかし、これと同じような医療介護の連携体制が構築できれば、多くの人が、遠く離れていても親の介護支援をできるはずです。これからの超高齢社会では、特に地方での認知症と看取りの医療介護体制を整えることが重要だと思います。
(酒向正春/ねりま健育会病院院長)
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