「社会の分断」から「内戦」の時代へ トランプと斎藤元彦知事の支持者はエリート層が大っ嫌い(元木昌彦/「週刊現代」「フライデー」元編集長)
日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年11月24日 9時26分
支持者にもみくちゃの斎藤元彦知事(C)日刊ゲンダイ
アメリカ大統領選で、有権者が最も重視したのは「経済」ではなく「民主主義」だった。
「リベラル勢力には、司法への圧力や議会への暴力で選挙の結果を覆そうと試み、ヘイトを扇動するトランプ氏の言動こそが民主主義への脅威と映る。一方で、トランプ氏支持者は、政治・金融のエリート層が利権をむさぼり、市民をないがしろにして、米国の民主主義を蝕んできたと信じている」(朝日新聞11月10日付「日曜に想う」から)
民主主義が股裂き状態になり、トランプが圧勝したため、アメリカ国内は「内戦状態にある」(アメリカの国際政治学者イアン・ブレマー)。映画「シビル・ウォー」で描かれた世界が現出し、横暴を極める大統領を武装した市民たちが追い詰め、殺すという“悪夢”が起きるかもしれない。
翻って、この国はどうか。派閥の裏金問題だけではなく、自民党の民主主義をないがしろにする利権・強欲政治に対する有権者たちの怒りが沸点に達し、衆院選で自民党は過半数を大きく割り込んだ。
しかも、その怒りはまだ収まらず、その余波が、兵庫県知事選で斎藤元彦を再選させたのではないか。私はそう見ている。
新聞、テレビ、週刊誌の斎藤バッシングは苛烈を極めた。問答無用、斎藤こそ悪の権化だと決めつけた。百条委員会ができ、不信任決議案は全会一致で可決されるという事態になった。
まるで、斎藤を支持するものは“非国民”といわれかねない異様な空気が日本全体を覆っていた。その最中に私は、この欄(9月16日付)でこう疑問を呈した。おおむねこういうことである。
告発文書は最初、県庁内の保護法に基づいた公益通報窓口を使わず、3月12日に匿名で一部の県議や報道機関に配布された。斎藤がその存在を知ったのが3月20日。翌日、副知事らに徹底的に調査するよう指示し、3月27日の記者会見で斎藤は告発文書を「うそ八百」と断じた。元局長が県の公益通報窓口に告発文書を出したのは、その後の4月4日であった。斎藤側に立ってみれば、告発文書を知った時点で、「公益通報」ではなく怪文書まがいと捉えたとしても、100%非難されることだろうかと。
失職して出直し選挙に出馬した斎藤は、再選されるための戦略を練りに練ったのであろう。たった一人で駅立ちから始めた。既成政党から切り捨てられた哀れな元権力者ではなく、数を頼む理不尽な権力に挑む孤高の挑戦者という“幻想”を有権者たちに抱かせる手法は、ジワジワと浸透していった。端正な顔立ちも効果的だった。弁明に終始するのではなく、これまでの実績と県の未来について語った。
選挙中は中立公正をバカ正直に守るメディアをしり目に、YouTubeなどのSNS戦略も功を奏し、既成の権力やメディアへの不信を募らせている若者や無党派層が、斎藤の演説会場に押し寄せ、「サイトーコール」が巻き起こった。
危機感を覚えた反斎藤派は選挙終盤、最大の間違いを犯した。県内22の市長たちが対立候補を支援すると発表したのだ。しかもその中の一人が机を叩き口を極めて斎藤批判をした。このバカげた行動がさらに斎藤支持を拡大した。
相手側の敵失と、何でもいいから既成権力を叩き潰せという“付和雷同”支持者たちによって、斎藤は勝利したが、県内に「分断状況」をつくり出してしまった。斎藤が前回の自身の行動を反省することなく、県民から白紙委任状をもらったと錯覚し、ミニトランプになろうとすれば、県内は内戦状態に陥るかもしれない。 (文中敬称略)
(元木昌彦/「週刊現代」「フライデー」元編集長)
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