勘九郎・七之助がアウェイの明治座で躍動!歌舞伎らしい演目並べ正攻法でお客を圧倒(中川右介/作家)
日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年11月27日 9時26分
歌舞伎座(C)日刊ゲンダイ
11月の歌舞伎座は例年なら「顔見世」で大幹部が揃うはずだが、今年は舞台機構設備の工事のため、「ようこそ歌舞伎座へ」という、インバウンドの外国人を含めた、歌舞伎初心者向きの特別公演。歌舞伎座の舞台機構を紹介する映像を中心にした案内と、尾上左近・中村歌昇・坂東亀蔵の『三人吉三巴白浪/大川端庚申塚の場』と、尾上松緑と4人の若手の『石橋』。
観客は入っていたし、松竹の狙い通り、外国人も多かったが、歌舞伎を見たことのない人が、「面白かった。また行こう」と思うかどうかは疑問。歌舞伎の凄さを感じさせるものがないのだ。外国人を含む歌舞伎初心者には、濃厚なドラマのある演目のほうがわかりやすいし、歌舞伎の魅力が伝わると思うのだが。
今月は明治座でも歌舞伎公演があり、中村勘九郎・七之助兄弟が座頭。若手を大役に起用している。
歌舞伎ファンではない、「明治座のお客様」という、この固有の観客も多い劇場だが、勘九郎・七之助は歌舞伎らしい演目を並べ、正攻法で臨んだ。その結果、歌舞伎をあまり見ない「明治座のお客様」までをも、歌舞伎の力で圧倒させていた。終演後、お客さんたちは興奮して語り、エスカレーターは賑やかだった。
昼の部は、2人の父方の曽祖父.6代目菊五郎と、母方の曽祖父.5代目福助によって初演された長谷川伸の『一本刀土俵入』。家の芸として自分のものにしている。
とくに勘九郎演じる渡世人が凄い。暴力を内に秘めた怖さと、恩を忘れない律義だけでなく、絶望的な孤独の中にいることまでも感じさせる。幕が閉じた後、彼をとてつもない悲劇が待っているのだろうと想像してしまった。
勘九郎は、夜の部『鎌倉三代記/絹川村閑居の場』の佐々木高綱でも凄みを見せる。座頭としての風格と貫禄が身についてきて頼もしい。若手を育てる立場になっており、菊之助の菊五郎襲名の次は勘三郎襲名だろう。
七之助は鶴屋南北作『お染の七役』で大奮闘。冒頭から立て続けの早替わりで、観客を一気に歌舞伎の世界に引き込ませる。早替わりでは、出てきた瞬間に、別のキャラクターになっているから、見事。この役を、玉三郎から、しっかりと受け継いだ。
歌舞伎はスター主義の演劇だと再確認させたのが明治座の勘九郎・七之助であり、歌舞伎座は、歌舞伎はスター不在では成り立たない演劇だと再確認させた。
(作家・中川右介)
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