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長寿研究のいまを知る(11)やせる2型糖尿病薬と長寿との関係…抗がん剤より副作用が少ない

日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年11月28日 9時26分

長寿研究のいまを知る(11)やせる2型糖尿病薬と長寿との関係…抗がん剤より副作用が少ない

写真はイメージ

 古い2型糖尿病の飲み薬であるメトホルミンに抗老化作用があるのなら、新しい2型糖尿病の飲み薬にも同様の効果があるのではないか? そう考えるのが自然だ。

 実際に、2014年に日本で発売になった「SGLT2阻害薬」に抗老化作用があることを順天堂大学の研究チームが今年公表している。

 SGLT2阻害薬とは、尿中に捨てたブドウ糖の再吸収を阻害することで血糖値の上昇を抑制する飲み薬。インスリンを産生する膵臓に働きかけてインスリン分泌量を増やすSU剤という飲み薬とは異なるメカニズムで血糖を抑える。そのため、膵臓を疲弊させず、体重も減少することから、処方する医師が増えている。

 研究チームは、血糖を低下させるSGLT2阻害薬の投与はカロリー制限した状態を模した状態をつくり出し、老化細胞の除去が進み蓄積が抑制される。だからSGLT2阻害薬は老化を抑制するのではないか、との仮定を立てた。

 その仮説を立証するため、肥満させたマウスに短期間SGLT2阻害薬を投与した群と、インスリンを投与した群とを比較した。

 結果は、SGLT2阻害薬群の方が蓄積した老化細胞が減少し、肥満による内臓脂肪の炎症や糖代謝異常、インスリン抵抗性が改善するという、インスリン群には見られない特有の結果が得られた。つまり、SGLT2阻害薬には血糖改善とは別の作用があるということだ。

■カギは細胞内の燃料メーター「AMPK」

 研究チームは、さらに細胞内の代謝によって作られた低分子化学物質を調べたところ、AMPK(AMP活性化プロテインキナーゼ)を活性化するAICARと呼ばれる代謝物が増加したことがわかったという。

 AMPKは細胞内でエネルギーが足りなくなると、それを察知してエネルギー産生に関わる酵素のスイッチをオンにする作用があり、燃料センサーとも呼ばれている。

 さまざまな実験から、SGLT2阻害薬の老化細胞除去効果にはAMPKの活性化が重要で、とくに悪性度の高い老化細胞ではその発現レベルが上昇する免疫チェックポイント分子(PD-L1)の抑制が重要であり、それが老化細胞除去を促進することがわかっている。また、SGLT2阻害薬の投与は、高コレステロール血症によって形成された動脈硬化巣から老化細胞を除去することで、動脈硬化プラークの縮小を促進したという。

 さらに、加齢に伴うフレイルの改善や、早老症マウスの寿命の延長なども観察できたとも報告している。ハーバード大学医学部&ソルボンヌ大学医学部客員教授の根来秀行医師が言う。

「繰り返しになりますが、細胞の老化は分裂寿命を迎えなくても、放射線や有害物質などによってDNAがダメージを受けたり、がん遺伝子が活性化した場合に起こります。細胞は老化することで、自らが異常な細胞となったり、がん化したりするのを未然に防ぎます。通常、分裂しなくなると、SASP因子と呼ばれる炎症物質を分泌することで免疫組織を活性化して、自ら除去するようにプログラムされています。しかし、何らかの理由でこのプログラムが滞ることが老化が進む原因のひとつと考えられています。そこで、がん細胞と同じく老化細胞の表面にも発現する免疫チェックポイント分子を抑制させる、がん治療薬・免疫チェックポイント阻害薬が老化細胞除去薬のひとつとして関心を持たれています。しかし、がん治療薬ですから副作用が大きい。そこで、メトホルミンやSGLT2阻害薬などの研究が進んでいるのです」

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