認知症でリスク増…高齢者の転倒予防で重要なポイントは?【介護の不安は解消できる】
日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年12月2日 9時26分
写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ
【介護の不安は解消できる】
厚労省が行った「令和4年人口動態統計」によると、高齢者の転倒・転落・墜落による死亡者数は1万809人と、交通事故の2199人に比べて約5倍に上ると報告されています。
その理由として挙げられるのが、加齢による身体機能の衰えです。年齢を重ねるにつれ筋力や反射神経が低下したり、白内障によって視野が狭まりやすい。とりわけ高齢者は持病の多さから「多剤併用」しているケースが多く、ある研究では5剤以上の薬を飲んでいる人は3~4剤の人に比べて2倍転倒しやすいことが分かっています。中でも睡眠薬や抗不安薬に含まれる成分の「ベンゾジアゼピン」には筋肉を弛緩させる作用があり、転倒の大きな原因になります。
さらに認知症があると、注意力や、空間認知機能が低下しやすい。住み慣れた自宅であっても目の前の段差を見落としたり、モノとの距離感が掴めず、わずかな段差でつまずきます。そこに薬の副作用が加わると、場合によっては階段から足を踏み外して大きなケガにつながるリスクが高くなるのです。
軽度認知障害を患う80代前半の女性は、多少の物忘れはあるものの、日常生活に大きな支障はないと1人暮らしを続けられていました。自宅にお邪魔すると玄関土間と玄関ホールの境目にある「上がり框(かまち)」が高く、ホールの床には衣類やビニール袋などあらゆるモノが散乱。後日、外出から帰宅した際に上がり框につまずいて顔面から転倒して額に大きな傷を負ったと連絡を受けました。
頭部の打撲は、受傷直後の意識障害の危険のほかに、慢性硬膜下血腫では数週間から数カ月後、手足のマヒや歩行障害、思考能力の低下を招く恐れがあります。また、骨がもろい高齢者が転倒した際に腰を打つと、寝たきりのハイリスクとされる「大腿骨頚部骨折」を起こして、認知症を発症させたり進行を速める可能性が高い。
転倒を防ぐ上で最も重要なのが、居間の整理整頓です。新聞や本、衣類などを床に放置せず、すぐに片付ける習慣を身につけましょう。つまずきの原因になりやすい電気コードは、壁に沿わせるか部屋の隅にまとめて配置してください。スリッパの着用は、フローリングの床で滑りやすいだけでなく、かかとが浮いて“すり足歩行”になります。自宅内を安全に移動するためにもスリッパの着用は避け、滑り止め防止機能がついた靴下を着用するのもおすすめです。
それでも、筋力や関節機能の衰えで足元がもつれやすい高齢者は、たった1センチ程度の小さな段差でも足を引っかけやすい。近年は、廊下と部屋の境目にある段差にスロープの設置を行うリフォーム会社も少なくありません。
介護保険制度を利用すると負担額を軽減できるので、選択肢のひとつとして検討してみてはいかがでしょうか。
▽鈴木みずえ(すずき・みずえ)浜松医科大学医学部看護学科臨床看護学講座教授。認知症高齢者と介護者の生活の質を向上させるため、音楽・動物・タクティールケアなどを取り入れたケアの質の向上に関する研究を行う。
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